歌手の布施明がコンサート会場で朗読して多くの人たちの涙を誘ったという童話「この手のひらほどの倖せ」を映画化した人間ドラマ『手のひらの幸せ』が公開。昭和30~40年代を舞台に、養護施設に引き取られた幼い兄弟が、周囲の人々の愛に触れながらやがて彼らに訪れるささやかな幸せとともに成長していく姿を映し出す感動作だ。その弟・龍二を演じるのが、「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 2nd season」の好演も光る若手俳優の浅利陽介。実際に兄弟がいるという彼が、改めて兄弟のきずなを見つめ直したという本作について、いろいろと語ってくれた。

■取材・構成・撮影/床板京平(OFFICE NIAGARA)

年齢が離れていない兄弟を演じるために参考にしたあるものとは?

  ―― 最初に『手のひらの幸せ』の脚本を読まれた時は、どんなメッセージを受け止めましたか?

兄弟の物語なので最終的に兄弟愛というテーマが胸に響きました。実は僕には兄が2人いますが、兄弟愛を考えたことがなかった(笑)。僕の兄たちは長男が36歳、次男が32歳で、14歳と11歳も離れています。小さいころに遊んだ記憶はありますが、僕は子どもでも向こうはほぼ大人(笑)。兄弟、兄弟愛について深く考える環境じゃなかった。最初は年齢的にはそれほど離れていない龍二、健一の関係性というのがよくつかめなかったですね。

 ―― その漠然とした龍二、健一の関係性が、ご自分の中でしっくりきた瞬間はいつでしたか?

そのまま漠然とした感じでクランクインを迎えるのは嫌だなと思っていて、で、そもそも脚本を読むだけではまったく頭に入ってこないタイプなので、参考にするために映画を観ようと思い、韓国映画でウォンビンさんが出ている『マイ・ブラザー』を観ました。なるほど兄弟というのはこういう感じなのかと。最終的には自分の両親、親を含めて兄弟愛が語れると思いましたね。自分の母親に迷惑をかけたくない自分がいて、迷惑をかけそうな兄弟がいて、それを止めるみたいな感じ(笑)。

 ―― なるほど。そう考えると、母親の存在を通して兄弟のリアルな関係性が見えてきますよね。

ただ、ほかの兄弟にしてみれば、今度は自分が母親に迷惑をかけているのかもしれないですよね。そこには激突もあるだろうし、親からとは違う得るものもありそうです。考えかたとか、たくさんありそうですよね。この『手のひらの幸せ』に出る前は、それほど兄弟についてしっかり考えたことがなかったし、それは年が離れていたので接したことがなかったからなのですが……。14歳と11歳も離れていると、血が繋がっているという意味で、ほぼ従兄弟みたいな感じでした(笑)。

演じる役に対して疑問が発声した場合の浅利流解決法!

   ―― やがて実際に撮影が始まった後、兄弟愛や兄弟の感覚みたいなものを実感できましたか?

そうですね。この兄弟は、僕が演じた弟の龍二が生まれてすぐに母親が亡くなってしまい、父親も出稼ぎに出かけてそこで亡くなってしまいます。世の中でたった2人だけになってしまいますよね。だから家族は兄と弟の2人しかいない。兄が「この家は俺が守る!」とセリフで言っていますけど、弟は兄の言うことに従うことになりますよね。“従う”という、そういうことでさえ納得して、健一についていく龍二に共感しました。2人はたぶんケンカもしているだろうけど、とても仲がいい。仲がいい兄弟という感覚を知りましたね。

 ―― 『マイ・ブラザー』の効果もあって(笑)、理想的な兄弟の関係になっていたと思います。

(笑)。その『マイ・ブラザー』を観ている時はよくわからなかったのですが、映画の内容にふつふつと触発されて、自分の兄貴の好きなところ、嫌なところ、今までしたこともなかったこと、できなかったこと――そういえば、最初に脚本を読んでいる段階から、いろいろと出てきたような気がしますが(笑)、それらをノートにいろいろと書き出していって、自分の中にけっこうたくさんあったモヤモヤを整理して、それらをきちんと把握してから、もう一度脚本を読みました。

 ―― 最終的には弟の龍二というキャラクターをどのように膨らませていったのでしょうか?

僕が演じた龍二にとって兄は唯一の血縁なので、彼は大きくなったらまず兄に恩返しをしたいと思っているはずだと考えました。後は演じながら膨らませたと思います。僕は疑問に思うことがたくさん出てきてしまうので、それを埋めるためにいろいろと考えて、そのせいで寝られなくなる日がけっこうありますね(笑)。それがポンポンと決壊する瞬間が訪れると、興奮してまた寝られないという(笑)。頭で想像していることが映像とともにいろいろ出てくるイメージですね。

昭和の記憶はないけれど、昔のことは忘れちゃいけないと思う

 ―― それでもイメージがわかずに、煮詰まってしまった場合はどういう風に乗り越えますか?

実際はそういうこともよくありますよ。本当に何も出てこない場合には、僕は自転車が大好きなので、自転車で都内を疾走していますね。新宿から渋谷、上野までの距離ぐらいなら余裕で走りますよ。めちゃめちゃ汗かいてすっきりしてから、人混みを観て人間観察とかしています(笑)。人の行動や表情は観ていて本当に面白いので、そこでまたひらめきがあるものです(笑)。今思ったことですが、いろいろと観ているだけで、仕事に反映することも得られるような気がします。

 ―― ところで物語の舞台である昭和30~40年代は浅利さんにはどのように映っていますか?

うーん。時間があるけれど、時間がないような時代というか、今よりもお隣さん関係や人間関係を大事にしているような時代というイメージですね。高度経済成長に乗れ! 乗れ! みたいな空気もある。でも、今の時代に勢いがないわけじゃないですが、当時はモノがなくて人に頼るしかない、モノがないからいっぱいモノを作ろうとか、そういう風に映っています。いい時代と言われていますが、それはちょっとわからないかな。僕には過去なので、そんな時代なのかなあと。

 ―― そういえば、浅利さんは『ALWAYS 続・三丁目の夕日』で一度昭和を体験済みでしたよね。

そうですね。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』でもそうでしたが、僕らは映画で昔に戻って、それを今の人たちが観るわけですよね。車の感じとか確かに映画のままだったよとか、そういう声を聞くたびに昔のことを忘れちゃいけないなと思いました。たとえば、カミさんと結婚する前、昔はあの人と付き合っていたなあとか、そういうことを思い出しながらフレッシュな気持ちになることもあると思います。でも、僕にとっての過去じゃないので、僕はあくまで疑似体験ですけどね。

不幸なストーリーなのに、不思議と晴れやかな気持ちになれる

  ―― またロケ地は新潟県だったそうですが、地元の人たちと触れ合ってみていかがでしたか?

とにかく優しい! 滞在していたホテルの近くの居酒屋に飲みに行きましたが、いかにも大将みたいな感じの人がいた(笑)。カウンターがあって、奥に座敷が少しあるようなお店でしたが、その大将がものすごく話す人で、地元のこと、美味しい食べ物のこと、お酒や魚、何でもかんでも自信を持って紹介してくれる。だからすんなり納得してしまう。自分の地元のことをよく知っていることは素晴らしいと思いました。部外者に説明できる新潟の人は素敵だなと思いましたね。

 ―― そういう触れ合いも含めて映画は作られていきますよね。皆で食べる食事も重要みたいな。

ええ。映画の撮影は毎回の食事が楽しみだったりしますが、山奥の会館みたいなところで飯を食いましたが、全部手作りでした。ケータリングじゃない。あ、ケータリングもありましたけど(笑)。基本的には手作りなので上手かった! 民宿に泊まっているような感覚で飯が楽しめましたね。あれも喰って、これも喰って、親戚の家ではしゃいでしまうみたいな感じでした(笑)。確かに地方ロケの場合は、どっぷりと漬かったほうが、キャラクターに入り込めるかもしれないですね。

 ―― 最後になりますが、これから『手のひらの幸せ』を観る人たちに、一言お願いいたします。

『手のひらの幸せ』は、基本的にはとても胸が痛くなる悲しい映画ですが、僕が演じた龍二と健一の関係性に注目してほしいですね。龍二と健一の前にたくさんの人たちが出てきて、その人たちにお世話になりながら彼らが成長していきます。新潟県の美しい自然も心癒されると思いますし、何よりも不幸な物語なのに、観終わった後にはどういうわけかほのぼのとした、晴れやかな気持ちになれると思います(笑)。どうしてそう感じるのか? その不思議を見つけてください!

■衣装クレジット:インディアン東京 (03-3409-7077)、WASH渋谷パルコ (03-3464-5304)

 

プロフィール
浅利陽介(主演 竹林龍二/旧姓、田中龍二 役)

1987年生。東京都出身。幼少のころよりNHK大河ドラマ「秀吉」「元禄繚乱」「新選組!」、連続テレビ小説「あすか」、「永遠の仔」などをはじめ、多数のテレビドラマに出演する。映画では、『いま、会いにゆきます』(04)、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(07)、『GSワンダーランド』(08)など数々の話題作に出演を重ね、テレビドラマでは「ROOKIES ルーキーズ」(08)や「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(08)など高視聴率番組に立て続けに出演。『手のひらの幸せ』で映画単独初主演を果たした。そのほかの近作は『ランディーズ』(09)、放送中の「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 2nd season」。

バックナンバー

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作品情報

『手のひらの幸せ』

■原作:布施明「この手のひらほどの幸せ」(文藝春秋刊)
■監督:加藤雄大
■出演:浅利陽介、河合龍之介、村田雄浩、生稲晃子、角替和枝、六平直政、永島敏行、仲間由紀恵(友情出演)、西田敏行

(C) ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T-artist

2010年1月23日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー