遊ぶ金欲しさに衝動的に殺人を犯してしまい、死刑囚として服役する青年と、その被害者男性の婚約者だった女が、お互いが置かれた、相反する状況を超越して惹かれ合っていく禁断の愛をつづる衝撃作『真幸(まさき)くあらば』が完成した。第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門に出品され、漫画家・江川達也が映画の前章となるエピソードをコミックとして描き下ろすなど、多方面で話題を集めている本作に、『殯(もがり)の森』『クライマーズ・ハイ』などの若手女優・尾野真千子が主演した。本作の製作を務めた奥山和由プロデューサーが激賞する実力派の女優に、さまざまな話を聞いた。

■取材・構成・撮影/床板京平(OFFICE NIAGARA)

演技をしながら嘘をつく必要がない――理想的な監督に出会った

―― ご出演は本作の製作を務める、奥山和由氏から直接口説かれて、決められたそうですね。

最初に脚本を渡していただいたと思います。物語全体に納得がいかない点があったので、御徒町(凧)監督にお会いすることにしました。死刑囚に恋をする心境を理解することに時間がかかりました。御徒町監督とお話しするうちに、その世界観に触れて出演するにいたりました。御徒町監督は詩人なのですが、映画監督としてのセンスも素晴らしいかたで、映画が完成する前からすごくいいものになるなと思いました。わたしが求めているような映画監督だったのだと思います。

 ――御徒町監督が、尾野さんの求めていた映画監督だったというのは、具体的にはどのようなことなのでしょうか?

気持ちで演技ができる、させていただけるような気がしました。そういう気持ちさえあれば、演技というのは表情や言葉に自然と出てくるものだと思うので、そういうことを大事にしてくれる人だなあと。演出方法なのでいろいろな監督がいて当然で、気持ちも大事にしてくれるものですが、御徒町監督はいかに自然な演技ができるのかを目指してくれる人。その時の気持ちに嘘をつかされることがありますが、御徒町監督の場合は、そのまま、嘘をつく必要がなかったわけです。

 ―― つまり、御徒町監督は、完全に演者のことを信頼しきってくれていた、ということですね。

そうですね。カットがかかった時もわたしたちに聞いてくれました。もちろん、ほぼ御徒町監督がOKを出していましたが、気持ちの演技の場合はわたしたちに「どうだった?」と聞いてくれて、わたしたちがうなずけば「じゃあOKだね」という感じでした。なかなかいないタイプの映画監督だと思います。映画監督がOKを出せばそれが絶対だと思って、わたし自身も監督がOKならOKなのだろうと思っていましたが、御徒町監督は、わたしたちに委ねてきてくれましたね。

聴くたびに鳥肌が立つような世界観の森山直太朗さんの音楽が好き!

  ―― ただ、この題材に限っては、演者にも判断を委ねる演出がふさわしかったと思いますよね。

そう思います。ほぼ順撮りでしたので気持ちを作っていきやすかったですし、気持ちをつなげて行くこともできました。御徒町監督のリクエストや相手の表情も理解しやすかったですし、演じながら演じることの楽しみがありましたよね。わたしはドキュメンタリー映画が大好きなので、御徒町監督にすすめてみましたが、どうでしょうね(笑)。わたしは御徒町監督が撮るドキュメンタリー映画にすごい興味があります。今回は本当に御徒町監督でよかったなと改めて思います。

 ―― 御徒町監督は本作の音楽監督・森山直太朗さんの多くの楽曲で作詞を担当したそうですね。

純粋で素敵な関係性ですよね。わたしは彼らの世界観がもともと大好きでしたので、森山さんの音楽を聴いていると、胸に迫ることが日ごろからよくあります。どの歌を聴いても必ず鳥肌が立つ。好きです(笑)。こうして考えると、どことなくおふたりは似ているような気がしますよね。

 ―― 『真幸(まさき)くあらば』も含めてですが、ご出演を決める際の基準などはありますか?

昔から同じままかもしれませんけれど、その作品に出ることによって自分にどういう影響があるのか、ですね。最初は脚本を読むことしかできないので、読み終わった後にいろいろと考えて自分の成長につながらないのなら、止めておこうとも思います。とてもシンプルな基準で判断していると自分では思います。最近は脚本の最初の3行でやるかやらないかを決めたりすることもあるので、厳密に深く考えているわけじゃないですが(笑)。出だしって、意外に重要ですよね。

将来は大女優になりたいので、2010年も頑張るしかないです(笑)

 ―― ところで、話は飛びますが、今後の展望として、海外進出などを考えたことはありますか?

わたしは海外の人の気持ちがよくわからないというか(笑)、洋画などをよく観ていますが、文化の違いが絶対的にあるので、日本の監督がいいです。好きです(笑)。自然を撮っている映画や、人物と背景がうまく混ざっている感じの映画が好き。たとえ話がわからなくても、漠然とした何かが自分の中に入ってくるような気がします。上映中に寝てしまっても、途中から復活して観られます(笑)。自然だけでなく、ドキュメンタリー映画を撮っている監督の作品も好きです。

 ―― また、女優デビューから現在までを振り返ってみて、何か感じることなどはありますか?

わたしには大女優になりたい目標があって、それは自分の中での大女優という意味で、どんな演技もこなせるけれど、自分のスタイルを崩さず、それが観ている人にも伝わる女優さんになりたいと思っています。実は今まで“頑張る”という言葉が大嫌いでした。まったくお仕事がない時期に、自分では頑張っているつもりだったので、そのころを知っている人からも頑張れ、頑張れと言われると、ものすごく腹が立っていました。こんなに頑張っているのに、なぜもっと頑張らなければいけないの? と思ったわけです。でも、最近はいろいろな作品に出させていただいて、もっと頑張らないとダメだなと思いました。今は頑張ること、頑張ろうという言葉が大好きです。

 ―― 最後になりますが、新しい一年を迎えるにあたって、目標や抱負などをお聞かせください。

1月の始めから出演した映画が公開されるのは、女優として幸せなことです。2010年もいい年になりそうです(笑)。今年は映画祭に出していると聞いています『トロッコ』なども待機していますし、わたしは大女優になりたいと思っているので(笑)、とにかく頑張るしかないので頑張ります! 2009年は初めての経験をさせていただいて、いろいろなきっかけをいただいた1年でした。それらをいかせるように、次につなげていくことができるように頑張っていきたいです。

 

プロフィール
尾野真千子(川原 薫 役)

1981年生。奈良県出身。中学生の時、映画監督・河瀨直美の目にとまり、1997年、『萌の朱雀』で映画主演デビューを果たす。以降、青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』(00)、山下敦弘監督の『リアリズムの宿』(04)、石井克人、三木俊一郎、伊志嶺一[ANIKI]らによる『ナイスの森 The First Contact』(04)、覚和歌子、谷川俊太郎監督による『ヤーチャイカ』(08)、原田眞人監督の『クライマーズ・ハイ』(08)など話題作に数多く出演。2007年、河瀨監督と再び組み、主演した『殯(もがり)の森』が、カンヌ映画祭でグランプリを獲得して世界的な注目を集める。テレビドラマでは、NHK大河ドラマ「義経」(05)、NHK連続小説「芋たこなんきん」(06)、WOWOW「空飛ぶタイヤ」(09)などに出演。また、2009年の11月から放送されたNHK土曜ドラマ「外事警察」の好演も記憶に新しい。今後の待機作として、主演作『トロッコ』など。類まれなる大胆さを持ち合わせた才能豊かな若手実力派女優として、今後の活動に大きな期待が寄せられている。

 

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