
主人公のココは、「ペンギンは飛べる」という父の言葉を信じる少女。そして、ココを伝説の勇者“飛べない鳥”とカン違いする気弱なゴブリン、チャリー。そんな2人が、天使なのになぜか闇の帝王ブッカブーに加担するザミーの秘密を知り、ブッカブーから自分の村を守りたい一心で、ゴブリン村を救おうとする『よなよなペンギン』が公開に。『銀河鉄道999』『幻魔大戦』『メトロポリス』の名匠りんたろう監督が、世界中の子どもたちに贈る「信じる心と友情の大切さ」を描く。まるで絵本の世界から飛び出してきたようなアドベンチャー・ファンタジーを撮り上げたりんたろう監督に、映画のこと、日本のアニメーションの未来について語ってもらった。
■取材・構成・撮影/床板京平(OFFICE NIAGARA)
フルCGアニメーションを作るに至った名匠の覚悟とは?
―― いよいよ『よなよなペンギン』が公開となりますね。公開直前の心境はいかがでしょうか?
監督は誰でも同じだと思いますけど、作品は、作ってしまうと一人歩きしてしまうものなので、それを後ろから追いかけていくということはしないものですよ。製作サイドは動員数などを気にしていると思いますが(笑)、監督は作ってしまった後はもういいかな、というぐらいの心境。もちろん、多くの人に観ていただきたいのは、当然ありますけどね。親子の試写会などもけっこうやっていたようで、家族で楽しめる作品になっているので、この季節にピッタリだと思います。
―― 以前、『メトロポリス』で、フルCGの技術に触れた時に、その可能性を感じたそうですね。
実際にCGを使ってみたら大変でした。スタッフがビルを作るだけでも2~3年かかっています。最初のビルなどは1年半ぐらい費やして、それを作り直しています。大変でしたけど、それを作るプロセスを見た時に、CGの可能性を感じました。ただ、その時は可能性の内容がよくわからなかった。それを引き出すためにはアーティストたちがCGと闘うことで、2Dとは違う新しい表現方法が見つかるかもしれないと思いました。その後、しばらくは頭の隅にあったぐらいですね。
――
今回の『よなよなペンギン』をフルCGで制作しようと決意されたきっかけは何でしたか?
『メトロポリス』の後に、『よなよなペンギン』の構想を抱えながら、仕事としては「宇宙海賊キャプテンハーロック」をしていました。その間に『よなよなペンギン』をCGでやろうという話が上がってきて、それは直感的なものだったと思うけど、もし自分がCGで作るなら、どんなスタイルがいいのか考えました。日本でマッドハウスを中心にやるのであれば、ピクサーとは違うスタイルでやらなければいけない。そこで、長年やってきた2Dのノウハウをいかそうと思いました。
2Dの技術を活かさず3Dを作っていたら、日本のアニメーションに未来はない!
―― 2Dのノウハウを転用する作業は、アニメーションの素人が考えても大変そうですね(笑)。
最初は全部クエスチョンでしたよ(笑)。確かにピクサーは世界を制覇しているので、同じことをやって適うわけがない。ピクサーの技術を模倣して済ませばいいというものでもない。試行錯誤を経て、日本人的なものを作ろうということになりました。ピクサー作品のキャラクターの動きは、あくまでアメリカ的な発想で、そこには日本の2Dアニメーションが持っている独特の間や情感がない。それは確実にピクサーとは違うし、これなら面白いものができると思いましたね。
―― 独特の間や情感を表現するために、具体的にはどのような方法論を編み出したのですか?
大げさな言いかたをすると、2Dアニメーションの技術を活かさないで3Dを作っていたら、日本のアニメーションに未来はないぞと(笑)。そこで、いろいろと検討した結果、やれる範囲の技術を一度封印してしまおうと。そして、本来フルCGが苦手とすることに挑戦しようということになりました。たとえば、フルCGは表情を作ることが苦手。当時の技術では特に苦手としていて、それを製作テーマに掲げた。絵コンテも表情を捉えるバストショットが増えていくわけです。
――
キャラクターの描写以外で、2Dアニメーションの技術を転用した箇所はありましたか?
もう1つ重要なのは、背景。アメリカの場合、バックグラウンドは、あればいいぐらいですが、日本の1970年代、80年代の2Dを思い返してみると、キャラクターと肩を並べるぐらいの奥行きがあって、自己主張をしている。であれば、バックグラウンドもキャラクターに拮抗するぐらいのものをフルCGで作ろうと。CGで簡単にできる作業を封印したので、作業量が増えてしまった(笑)。フルCGでやるには無謀極まりない、とても乱暴な企画でスタートしましたね(笑)。
僕らがやろうとしたことは、画面上からコンピューターを消すこと
―― あえて作業の量を増やしてしまうコンセプトに、職人のこだわりと執念を強く感じますね。
僕には世界一かわいい映画を作りたい基本的なコンセプトがありました。フルCGがあって、その前に2Dの伝統と技術がある。僕ら自身がフルCGのほうに寄らず、フルCGを僕らのほうに寄せるみたいなイメージです。たとえば、キーフレームを打てばきれいにトレースされる、コンピューターでしかできないこともある。一方で、2Dアニメーションは、予算やスケジュールがなかった歴史から、2コマ撮り、3コマ撮りをやってきた。場合によっては、4コマ撮りまでね(笑)。
―― そういう手間暇かかる作業を、あえて今回意図的にやってしまったということですよね?
つまり、今回はコンピューターを使いながら、2コマ撮り、3コマ撮りをしたわけです。言葉で言うのは簡単ですが、2Dを知らない人には皆目見当もつかないことだと思います。だから、理解してもらうために、すごく時間がかかりました。一般の人がフィルムで観ていてわからないレベルの技術かもしれない。ただ、見た目にはわからなくても、心のどこかで違いを感じてもらえるはずだと思います。説明してもわからないことかもしれないけど、そこが今回の狙いでしたね。
――
コンピューター任せにしないことで、人間の手が入った温もりを感じることができますね。
絵本スタイルで作ると言っていましたから、当然バックグラウンドも重要でした。今のコンピューターのソフトは優秀なので、ある程度自動でやってくれる。でも今回は、ライティングの位置も全部ゼロから手でやりました。ライティングだけではないけど、そうしないと、美術監督の狙いが活かされない。目に見えないところで、そうとうな苦労はしたと思います。僕らがやろうとしたことは、画面上からコンピューターを消すこと(笑)。これは大変な作業だったと思います。
日本のアニメーションの将来は、今後の長い歴史が答えを出すはず
―― ところで、りんたろう監督は日本のアニメーション史の生き証人と言っても過言ではないですが、日本のアニメーションの黎明期のころというのは、どういう時代だったのでしょうか?
「鉄腕アトム」のころから、僕らは好きでやっていただけで、まさか日本のアニメーションが世界に紹介されることになるとは想像もしなかった。当時は若者に向けて、大人に向けてなど関係なく、一生懸命に作っていただけで、今振り返ってみて、そうなっていただけのこと。結果論です。歴史を作ろうという意識はなかった(笑)。「鉄腕アトム」がテレビ放送された当時は、新聞でよく叩かれました。子どもに悪影響を与えると(笑)。サブカルチャーの端っこにいましたよ。
―― 信じられない時代ですね。反対に、当時としては画期的な作品だったことの証明ですよね。
でも、子どもには世間の批判など関係ないわけで、それは今でも同じだよね。世間の良識とは断ち切れたところに子どもたちはいて、自由に観ていたと思う。当時批判していた連中は手のひらを返したように日本のアニメーションは素晴らしいと言っている(笑)。でも、幸か不幸か、本来サブカルチャーにいたアニメーションが、メインになってしまった。そして、世界中に広まってしまった。これが良かったのかどうか、この先の長い歴史が答えを出すことになるでしょうね。
――
アメリカと日本を比べるわけじゃないですが、近年日本のコンテンツのリメイクが止まらないです。海外は技術力や資本力はあるけれども、オリジナルのアイデアがないと思いますか?
どうなのかなあ(笑)。そのへんはよくわからないけれど、あれほどの技術を持っていれば、もっといろいろなことができるはずなのに、とは思います。アメリカが作るものの頂点にあるのは、ビジネスですよね。そこからストーリーやキャラクターが生まれているような気がする。作家の希望よりも、商業主義で企画が上がっているような気がします。その点、日本のアニメーションは幅広い。世界でも特殊だと思います。でも、日本だって窮屈になってきている。そういうなかで、ものを作り続けていかないといけない。今後どうなるのかわからないけれど、少なくとも今回『よなよなペンギン』を作った経験から言えば、コンピューターはアイデア次第で面白いものが作れるということがわかった。2Dとは違う面白さが出てくるかなあとは思っていますけどね。
プロフィール
りんたろう(監督・原作)
1941年生。東京都出身。1958年、東映動画入社。1960年、手塚治虫率いる虫プロダクションの設立に参加する。同プロダクションで、「鉄腕アトム」(63~66)、「ジャングル大帝」(65~66)など。その後フリーとなり、社会現象を巻き起こした劇場用長編アニメーションの『銀河鉄道999』(79)などの傑作を数多く手かける。 1983年の『幻魔大戦』以降は、マッドハウスを拠点に活躍する。卓越した演出力とビジュアルセンスで、日本を代表するアニメーション監督として、世界的に知られている巨匠。そのほかの代表作に、『カムイの剣』(85)、『火の鳥 鳳凰編』(86)、『X』(96)、『メトロポリス』(01)など多数。今回監督最新作となる『よなよなペンギン』では、原作を手がけたほか、初のフルCGアニメーションに独自の方法論で挑み、飽くなき探究心で、良作を作り続けている。
バックナンバー
- 2009.12.21 『よなよなペンギン』りんたろう監督インタビュー
- 2009.12.18 『アサルトガールズ』押井守監督単独インタビュー
- 2009.12.18 『ハイキック・ガール!』武田梨奈さん単独インタビュー
- 2009.12.3 『幼獣マメシバ』佐藤二朗さんインタビュー
- 2009.12.3 『SOUL RED 松田優作』御法川修監督単独インタビュー
- 2009.11.27 『母なる証明』ポン・ジュノ監督インタビュー
- 2009.11.27 『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』田中圭さんインタビュー
- 2009.11.20 『E.YAZAWA ROCK』増田久雄監督インタビュー
- 2009.11.19 『テイルズ オブ ヴェスペリア ~The First Strike~』鳥海浩輔さん単独インタビュー
- 2009.11.11 『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』六角精児さん単独インタビュー
- 2009.11.6 市川崑監督幻の傑作『幸福』発売!! 水谷豊さん舞台挨拶
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