
市川崑監督、水谷豊主演の幻の傑作ミステリー『幸福』が11月4日ブリッド版Blu-rayで発売されました。知る人ぞ知る傑作として、市川ファンの中でも評価が高く、ソフト化を望む声が非常に多かった本作。10月29日に都内で行われた発売記念の特別試写会には、大勢のファンの方が参加されました。
上映に先立って行われた舞台挨拶には、主演の水谷豊さん、河井真也プロデューサーが登壇。「20代最後の作品でとても思い入れがあった作品。ソフト化は本当に嬉しい」と作品への想いをにこやかに語るなど、終始和やかなムードの舞台挨拶となりました。
(取材・構成 編集部)
独特の特殊現像:シルバー・カラー「銀残し」
『幸福』は、シルバー・カラー(特殊現像技法「銀残し」の一種)が採用されています。これは色彩が氾濫する東京の下町のイメージに統一感を与えるため、当時、市川崑監督がこだわったためといわれており、カラーとモノクロの中間にあるような独特な色調が表現されています。
河井真也プロデューサー:
市川監督からは、シルバー・カラーについて事前にどういう説明があったんですか?
水谷豊:
監督は、「(今まで)自分がこの色にしたいという色に、映画はなかなかならなかった。今回のトライで自分の色の世界にどれだけ近づけるか…」「一度やってみたかった手法でこの作品は撮って見ようと思う。」と、「普通の撮影よりも照明を多く使わなければいけなくて、ちょっと暑いかもしれないんだ。それだけ我慢してもらえれば…」とも仰っていました。
で、監督の仰るちょっと暑いというのが凄い熱かった(笑)
あるとき撮影現場で温度計を見たら50度越えているんですよ。
作品には、刑事部屋のシーンが出てくるんですけど、監督が「ヨーイ!」というまで、メイクさんがガーゼで汗を抑えてくれているんです。「スタート!」でさっと外れて演技をするんですけど、やっている間にフアァーッと汗が出てきてしまうくらいな過酷な撮影でしたね。
市川監督との思い出
水谷豊:
監督と仕事を初めてだったので、気を使ってくださって、僕が緊張しないようにたくさん話しかけていただきました。最初は「水谷君あのね~」って言ってたんですね。それがある時に「ゆたかっちゃんあのね~」になったんです。だけど途中で「豊さんここね~」になったんですけど、どうも呼び方が落ち着かなかったんでしょうねぇ。(笑)
で、一番落ち着いた呼び方が「ミータニちゃん」(笑)そこからずーっと“ミータニちゃん”でした。
実は、この映画に出演して一つだけ心配なことがあって、当時まだ僕は独身だったんですけど、小さい子供たちの父親役を演じるにあたって、「ちゃんと父親に見えるか」ということが、それだけが心配だったんです。
映画を撮り終わって試写を見た時に、監督の奥さんの和田夏十(脚本家)さんが僕の心配を見抜くかのように「お父様に見えましたよ。良かったですね」と声をかけてくれたんですよ。「あぁ、よかった」と(笑)
※ここで、サプライズゲストとして『幸福』で水谷さん演じる村上刑事の子供・勉くんを演じた黒田さんが登壇。水谷さんも感激の面持ちに。
作品をご覧になる皆さんへ
河井プロデューサー:
監督は残念ながら亡くなられましたけど、忠実に28年前の“色”を再現できたと思います。
当時のスタッフの方も参加していただいて、監督が「この色で行こう」と言ったところに一番近い形で皆さんに見てもらえる作品を作ることができたと思います。
待ち望んでいた方がたくさんいらっしゃるこの作品を世に出すことができて、ようやくこれで監督の想いにも応えることができたのかなと思っています。ぜひ、この名作を楽しんでいただければと思います。
水谷豊:
実はこの『幸福』という作品は、僕の20代最後の作品なんです。今まで、10代最後、20代最後、30代最後、40代最後という作品は自分の中でとても印象があるんですけど、この『幸福』に関しては口に出せないなにかがあったんです。(ソフト化されていないので)世にあまり知られていなかったので…これで晴れて「20代最後の作品は市川崑監督の『幸福』でした」と言えるのは凄く嬉しいです。
この作品の撮影が終わって、監督が「ミータニちゃん、食事をしたいんだ」と誘ってくれたんですね。その時監督はこういうことを仰ったんです。「これから、ミータニちゃんには人としての色気のある俳優になってほしいんだ。」と。僕はまだその“人としての色気”というものが分からない年だったんですけど、「ミータニちゃん色気っていうのはね。『幸福』の中のあのシーンなんだよ。アレが色気なんだよ。」って仰ってくださったんです。皆さんそのシーンだけが気になってしまうので、今それが具体的にどのシーンかというのは言いませんけど(笑)
それからは、そのシーンの芝居がことあるごとにフッとイメージとして沸いてくるんですよ。
市川監督はこの作品の後に「チャンスがあったらまたやろうね」と言って別れていますから、僕の作品をずーっと見ていてくれていたようです。人づてに「ミータニちゃんだんだん良くなってきている」「また、ミータニちゃんが良くなってきた」って伝わって来てたんです。お亡くなりになるちょっと前まで…いつかきっと一緒にできる日が来ると思っていたんですが…
この作品のソフト化にあたっては、河井さんをはじめ、関係者の方の尽力にはとても感謝をしていますけれども、やはり、市川崑監督の作品の持つチカラが大きかったのかと本当に心から感謝しています。
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