5ヶ月にわたってお送りしてきた『とっておき寄席』DVDリリース記念のインタビューも、いよいよ最終回。トリを務めていただくのは  古今亭志ん輔師匠。 今回の収録で高座にかけた『夕立勘五郎』は、大師匠となる古今亭志ん生がかつて創作した小咄。他の亭号の噺家の許を巡り巡って、再び古今亭に戻ってきた曰く付きの噺であるという。 心技体ともに充実、今回の収録でも師匠・志ん朝を彷彿とさせる流麗な語り口で圧倒した志ん輔師匠。開演前にお時間をいただき、お話をうかがった。

若い頃は200%とか言いがちなんだけど。

――DVD収録と普段の寄席や落語会、違いはあるものですか?

違いますよね、やっぱり。本来そうあっちゃいけないんですけどね。でもどこかしら、いいカッコしたくなるじゃないですか?  間違えたくないとか、失敗したくないとか、他の人に負けたくないとか…いろんな想いがあって、しかも目の前にカメラがあるとなると、やはり肩に力が入る。でもそれって、結局よくないんですよ。 だから…よく自分の中で思うんですけども、100%っていうことなんですよね。

――100%?

100%でありたいと。若い頃はどうしても120とか200%とか言いがちなんだけど、それは結局良くないですね、うん。もちろん80%も90%もダメですよ。だから、100%。それ以上もそれ以下もあるわけがないんで。

――ないですか? 120とか200とか、100%以上のものって凄そうですけど…

それ以上だとしたら、それはもう力んでるってことですよ。

――なるほど! 

それ以下だったら、どっか気が抜けているってことになる。100%、毎回ですね。毎回常にどんな状況下でも、カメラがあろうがなかろうが、好きな女の子が来ていようがいまいが。好きなゲイボーイが来ていようがいまいが(笑)。

――(笑)

だからカメラがあったりなんかするとね、確かにグラグラって来そうな時もあるけど…でも、そんなこと言ってたってしょうがないじゃない!  自分の持っているものを、なるべく多く…じゃなくて全て! 全て出す。そうすれば前の人がウケていて自分がウケなかったとか、前の人がウケなかったから自分はウケてやろうとか。カンケーないすね、うん。だって“前の人、自分、後の人”って考え方、これは相対評価でしょ?

――そうですね、ええ。

絶対評価で自分が100%出せば、たとえばウケなくても…いや、そんなことまずないですね。100%ちゃんとやれば。仮に若干ウケなかったなと思っても、達成感はちゃんとあるもんなんですよ。100%出せてれば。それは疲れるし、15分でもヘトヘトになるんだけど、それを毎日毎日やっていると充実した毎日になりますよねえ。

――他人との比較をせず、自分の中の100%を基準にするということなんですね。ですが若いうちは何が自分の100%なのか、なかなかわからないと思うんですけど…

そうですそうですそうです。僕もわかってきたのは最近なんですよ、ええ。

義太夫のウィルスは感染力が強い!

実はですね、義太夫というものを習い始めたんです。『寝床』っていう噺があってね。義太夫を聞かせたがる旦那がいるんだけど、下手クソでみんな嫌がるわけですよ、聞きたくないって。その軋轢を描いていく笑いなんだけども、だから義太夫の匂いだけ、雰囲気だけでも知ってた方がいいかなと思って。

――はい。

たとえば花魁とかね、吉原って今はないでしょう? 落語では欠かせない題材だけどさ。だからお客様と演者が一緒に仮想世界に入っていくことになるんですけど、だけど義太夫っていうのは知っている人は少ないにしても、今あるんですよね。お客様の中に1人でも文楽だ歌舞伎だってやってて、「義太夫も知らないの、オマエ?」って思ってんじゃないかな…って思った瞬間に喋れなくなっちゃって。こりゃダメだよっていうんで義太夫の稽古場を訪ねたんです。 そしたら、その先生がうまいこと言うんですよ。「義太夫のウイルスはとっても感染力が強いから、見てるのはいいけど、うつらないでね」なんて。72~73歳のおばあちゃんですよ。

――カッコいいおばあちゃんですね。

すてきなね。朝重先生という方で、もうお亡くなりになったんですけど。それで“んなもん、うつるわけないでしょ”なんて内心思いながら見学して帰ろうと。で、すぐうつっちゃってさ(笑)。

――(笑)

えー!?(笑) どっちかと言えば好きじゃなかったんですよ、義太夫。それがさ…。

――感染してしまった。

「やってご覧になる?」って言われて。本格的にね、一段一時間の長いものを教わるとかじゃなくて、さわりの部分だけですけど。「みっつ違いのあにさんと…」っていう有名なのがあるんですよ。それをやるんだけど、義太夫の“あの声”にならないんですよ。

――発声法とか?

それとはまた違うんですよね。それで、これはさわりだけじゃ駄目だろうなと思って、きちんと稽古しようと思って。“伊達騒動”ってものを題材にした『伽羅先代萩』っていう演目のある部分をお稽古しましょうという話になって。「あとには一人…」というフレーズがあるんですけど、最初の「あ」の一声から全然先に進めなくてね。

――はあ…

三味線がデン!と鳴って、「あ」って言ったら先生が「ちょっと、ここ悲しい場面だから!」って遮って。「声を落とせばいいってもんじゃない。目の前に血を吐いて死んでいる倅がいるんだよ?  それを見つけた時のさァ」…忠義の心からね、そうと知りながら身代わりに毒饅頭を喰らって死んでいった息子が目の前にいるわけ。そういう長い説明があってさあ、「もう大丈夫です」「たのむわよ」「ハイ!『あ』」「だからさあ!」

――(笑)

…「あ」で30分。もうクタクタになっちゃって、このおばあちゃん、意地悪してんじゃないの?くらいに(笑)、本当にもうやんなっちゃって、やんなっちゃって。

――落語の稽古とは、また勝手が違ったわけですね。

それでも義太夫を始めて、もう7~8年になるのかな? そうするとねえ、落語に対する考え方が変わってきたんですよ。

爆笑の一席でお客さんが泣いた。

絵にたとえて言うと、まずきっちりデッサンをするようになりましたね。もともとは“細密画みたいに描かなくていいよ、落語なんだから”っていう人間だったんですよ。志ん生師匠みたいにね、「…ですなァ!」な~んて言ってりゃいいんでしょ?なんて。

――抽象画みたいに。

そうそう。だけど、どうも違うかもしんないと。いっぺんやれるとこまでやってみようと。そこに八っつあんがいて、八っつあんを描いたら、その後ろの障子も描いて、障子の破れ目もあったら、その破れ目の向こうに江戸の通りが見える。その通りを納豆屋さんが歩いてる。その納豆屋さんはこないだおかみさんと喧嘩して別れちゃった、とかさ。そうすると表情もどーっと深くなってくるじゃないですか。

――ええ。

そういう作業を始めたんですよ。描けるだけ描いて、そこで初めて紗をかける。ボカしてみる。そうするとねえ、時間が足んない! 時間が足んないけど…でも飽きなくなってきた。それまでどこか「落語だから…」と済ませていた事を徹底的にやってみたら、噺がどんどん変わってきたんですね。

――リアリティみたいなものですか?

うん。たとえばね、目の前の花魁を描いているけれども、こっちにいる若い衆にも明かりを当ててみよう。そうすると今度は、その向こうにいるダマされている田舎の御大尽がどんどん克明に…ただ田舎言葉を使えばいいってことではなく。落語の中でただただ笑い者にされてきたはずの彼がね、「かわいそうじゃないのよ!  あの人だって、ただ花魁に会いたいだけなのにさあ…」って、お客さんが泣いてくれたりね。

――へえ~!

全編爆笑の『お見立て』って噺なんですけどね。会いたくないからって花魁がね、自分は死んだことにしてくれって若い衆に頼んで。ヒドい話もあったもんでさ(笑)。またそれを聞いた田舎の御大尽がそんな見え透いたウソを信じちゃって、ニセのお墓の前で「ごめんねごめんね、もっと来てあげればよかったねえ…」ってさあ。

――バカですねえ(笑)。

本当は笑うところなんですけど、そこでお客さん泣いてたりなんかすると、嬉しくなっちゃいますねえ。泣き笑いのないまぜになったようなね。

帰ってきた、志ん生師匠の噺。

今回のDVDの演目は『夕立勘五郎』。
これは志ん生師匠がアルバイトで作った噺のようですね。その昔、雑誌に噺家が作った小咄を載せるのがはやったそうで。先代の金馬師匠であったり、志ん生師匠であったり、柳橋師匠であったり。チョコチョコ作って持っていっては、お駄賃を貰っていたそうです。そういう類いのものなんで、3分ちょっとの短い噺なんですよ。これを僕が稽古してもらったのが、なぜか柳家の扇橋師匠。本当は入船亭扇橋師匠なんですけど、柳派の方のね。で、志ん生師匠から、そのお弟子さんの馬の助師匠、馬の助師匠からそのお弟子さんの三遊亭圓彌師匠。そして扇橋師匠、私へと。古今亭の噺が古今亭に戻ってきた。みたいな。

――巡り巡って。

だから志ん生師匠はどういうつもりで作ったかわからないけど、とてもお客様には親切な、見せ物になりやすい噺です。バカバカしいなぁって、わけもなく笑える。

――あまり高座にかけないとか?

小品ですからコアな落語会ではやりませんね。通常の寄席ではよくやるんですけど、わざわざ映像に残すような噺ではないから、いずれ消えていくんだろうなと。音声やCDでは残るかもしれないけれど。だから、こういう噺を映像で残す酔狂者が一人くらいいてもいいだろうと思ったんで、今回選びました。

――志ん生師匠の映像、残ってないですし。

志ん生師匠も絶対テレながらやってたと思うんですけどねえ。はずかしいんですから!

――はずかしいですか?

うん。それ、はずかしいと思っちゃダメなんですけどね。

 

途切れない噺の集中力

――今回、大師匠である志ん生師匠の噺を高座にかけられるわけですが、志ん輔師匠の直接の師匠は志ん朝師匠。そんな志ん輔師匠の語り口には、志ん朝師匠ばりの途切れない集中力があると思うのですが。

ありがとうございます。嬉しいです。

――さきほど、志ん輔師匠がおっしゃっていた“100%を出す”という話。あるいは途切れない集中力と関係があるのかな?と。

さっき、『夕立勘五郎』はずかしいんだからって言いましたよね。たとえば「囲いができた、へえ~!」ってあるでしょ? この類いのシャレだとさあ、失笑に近いものはあったとしても、まず反応はないよね。

――そうですね。

あったらヘンだよ、爆笑になったりしたら。だけど、そういう小咄なりそういう場面って、落語の中に随所にあるんですよ。このシャレは言ってもウケないよっていうクスグリが。でもね、それもきっちりやるとね、なんだかわかんないけど、ウケるんですよ。 『宮戸川』っていう噺でね、おばあちゃんが「あたしァきまりが悪い」って言うと、おじいさんが「お前はきまりが悪いって年齢じゃないよ、きまりの方で悪がって逃げてくってやつだ」っていう。え?  何それ? やる方もはずかしいんです。でもね、肚を決めてビシャッとやると、これがウケるんですよ。

――へえ~!

おじいさんははずかしがって言ってるわけじゃないからね。きっと江戸時代、長屋の夫婦の間でそういう会話があったはず。噺ではおじいさんの返しで終わってるけど、その後おばあちゃんが何か言っているはず…そういう肚でやると「えー?」と思うくらいウケる。ものをちゃんと描くって、こういうことかなって。それで前置きが長くなったけど、質問の集中力の話。今言ったような事をやっていくとですね、切れる間がないんですよ。

――はあ~、なるほど。

はずかしいなと演者が瞬間でも思って、「あ、ウケなかった、やっぱウケないな、これウケないんだよ、やっぱここんとこウケないんだよな…」なんて引き摺りながら次の言葉に行くっていうと、ブツブツブツって切れちゃう。

――ああ…

それをちゃんと、つむいでいけばね。だから、落語を信用してない 演者が多いですよね。「今落語の世界はウケないんだよ、ない世界 なんだから」なんて泣き言は言わずに。ない世界をあるように見せるっていうのは、彫刻や絵画も同じなんだから。ないものをディフォルメして形にしていくのが、(ソウゾウ=想像)だよね。その(ソウゾウ)を落語に活かすと、こんなに楽しい作業はないですよ。だって(ソウゾウ)=想像=創造になっていくもんね。 イヤなおじいさんがいたとして、話には出てこないけど本当は孫が いる。孫のことになると目尻が下がっちゃう。そういうソウゾウを すると、孫も出て来ない場面でも、フッとそのイヤなおじいさんの  可愛い一面が見えてしまう。

案外お客さんはね、そういうの見逃さないんです。

――お客さんの方が、見逃さないんですね。

見逃さない。落語初めて聞くようなお客さんの方が逆に。うん、不思議だねえ。

 

“そこでグッとためるんだよ!”志ん朝師匠が…

――落語を信用する、という話が出ましたが、志ん輔師匠の体験でいえば?

きっかけは師匠の死ですね。志ん朝は63歳で亡くなったんですけど、15年経つとあたしも63歳になるって年に亡くなったんです。噺家ってだいたい口がきければ生涯やれると思っているし、自分もそんなつもりでいた。だから逆に言うとダラダラいつまでもやってしまう。そんな時“いきなり死んじゃうこともあるんだ”って師匠が教えてくれたわけですね。

――なるほど。

てことは、1年にひとつ落語を仕上げたとして――まあ仕上がるってことはありえないんですけど――なんとなく形に、かなり完成度の高いものにして、それならば15席でいい。15年みっちりやるのは大変だなと思ったんだけど、「15席?  簡単じゃない?」て気が楽になっちゃってね。生涯やってなきゃいけないと思うと、気が重いんですよ。

――でしょうね。先が見えない感じがします。

見えない。で、キザな話なんですけど師匠が亡くなった時、15年、自分も63歳で寿命を切ってみたんですよ。「ダメよ、そんなことしちゃ!」なんて娘には言われたけど、「万が一生きてたら、あと5年延ばすから」。

――その時はその時で(笑)。

そうそう。で、やってみたの。そしたらやっぱり集中しますねえ。 だから師匠とみっちり噺の話をしたことはないんですけど、「師匠だったら…?」って考えるようになりましたね。自分の中で何か行き詰まった時、「師匠だったら、どうしたかな?」とか「師匠だったら、こうしたらだろう」ってね。だから  師匠が亡くなってからの方が、師匠とは頻繁に対話してるんじゃないですかねえ。

――はあ。

だから落語を信用するようになったきっかけっていうか、師匠が降りてきたって話があって。『お見立て』って噺なんですけど、これは 面白いですから是非聞いてください。
実は私が師匠のやり方から離れて、シャー…って流れるがごとく流暢に喋るのはやめた時期があってね。ビッ、ビッ!って区切ってキメていくやり方をしてみたら、これも案外ウケたりしてたんですけど、  トリを上野の鈴本で取ってたら、師匠がフアッ!と来て“もっとトントン行きなよ!”って言うんですよ。

――はあ~!

“ダメですよ、今、あたし、やり方変えましたから”って答えたら、 ドン!と押されてウワアーーーー!!!っと話し始めちゃったんです。

――へえ~…

“ダメダメダメダメダメダメ!”って思ってたら、キュ~っと、こうね、手綱を引いてくれるの。“いつもお前、そこで加速しちゃうから舌が回んなくなって、噛んでしまうんだから。そこでグッとタメるんだよ。ギュ~ッと引っ張って…”と、途切れない流れの中にも緩急や間がしっかりあるわけです。そうすると、お客さんがことごとくツボにハマって、ドーン!  ドーン! ウワア~!…っと笑いが渦巻いてねえ。
あれは感激しちゃったなあ。

 

プロフィール

古今亭志ん輔(ここんていしんすけ)

昭和28年東京都出身。昭和47年、古今亭志ん朝に入門。前座名「朝助」。昭和55年、二ツ目昇進で志ん朝の前名「朝太」に改名。昭和60年に真打昇進、「志ん輔」を襲名。二ツ目時代の昭和57年から16年にわたってNHK『おかあさんといっしょ』に出演、子供達の人気者に。現在は寄席出演に加え「気軽に志ん輔」「志ん輔の会」などの自主興行、志ん朝一門の後進育成の「たまごの会」など精力的に活動。

バックナンバー

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発売日:2009/10/21

◆演目紹介
古今亭志ん輔師匠:『夕立勘五郎』

もとは古今亭志ん生が創作した3分程度の小咄。さまざまな亭号の噺家を渡り歩き、巡り巡って古今亭に帰ってきた。場末の寄席にやって来た自称・高名な浪曲師。十八番の一席『夕立勘五郎』を唸ってみせるが、東北訛りのズーズー弁で何が何やらサッパリで…

。志ん生ならではの馬鹿馬鹿しさと明るさに満ちた話を、志ん朝の芸風を忠実に伝承する志ん輔師匠が、30分の長尺ものに再編して熱演。初心者から落語通まで爆笑の一席。

◆その他演目

●古今亭菊之丞 「お見立て」
●古今亭志ん弥 「締め込み」
●アサダ二世 <奇術>
●古今亭志ん五 「長短」
●五街道雲助 「お若伊之助」

とっておき寄席!シリーズ作品

◆柳家たっぷり二時間半
◆林家たっぷり二時間半
◆三遊亭たっぷり二時間半
◆春風亭たっぷり二時間半

プレゼント

古今亭志ん輔師匠直筆色紙!!

【賞品概要】

* 賞品:古今亭志ん輔師匠直筆色紙
* 当選人数:1名様
* 応募締切:2009年10月25日(日) 12:00
* 商品の発送をもって、発表とさせていただきます。
* 商品の発送は11月中旬ごろを予定しております。

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