
落語初心者や若い女性にも絶対にオススメ!現代人による、現代人のための新作落語で人気の柳家喬太郎師匠。 そんな喬太郎師匠、最近は古典を高座にかけることが増えたという。今回の『とっておき寄席』でも古典の『小言幸兵衛』を披露。 新作と古典。噺家という個人と亭号という流派。相反するように見えるふたつの間で、当事者である喬太郎師匠は今、何を考えているのか? 偽らざる想いを話していただきました。
ピンの作品じゃないからお受けできました。
――回のDVD収録『とっておき寄席』は25人の人気真打が一同に会したイベント。これだけのメンツが一度に揃うのは落語界では珍しいとのことですが。
そうですね。ただ落語芸術協会の先輩方、うちの落語協会の先輩方。うちの協会の先輩方は寄席で普段ご一緒してる方ばっかりですし、芸協の方もお仕事その他でよく顔を合わせる先輩方。そういう意味では普段通りの気持ちです。やっぱり何だろうなあ、その…ことさらに気張らずにね、普段の自分たちを見てもらう感じがきっといいんだろうな、とは思っているんです。
――今回いらしているお客さんは寄席初心者の方も多いようですが、本日の喬太郎師匠の演目は『小言幸兵衛』。選んだ理由は?
やっぱり一番大きいのは、他にどなたがお出になるかですよね。24人の仲間、先輩方、どなたがお出になるか。ネタがかぶらないように、ということは非常に大きいですよね、当たり前だけど。あとは…元も子もないけど(笑)、他の会社でCDに入れてないやつとか、まだネットで配信してないやつとか、そういう配慮もあります(笑)。
――ファンとしては、そういう配慮は嬉しいと思いますけど。
うん、それは非常に意識しますね。それからもうひとつは、今回は柳家喬太郎のDVDではない、ということ。だからお受けしたところはありますね。こういった取材であんまりネガティブなこと言っちゃいけないんでしょうけど(笑)…まだ自信がないんでしょうね。たとえばワザオギさんではDVD出してますけど、あれはピンじゃないんでね。柳家喬太郎のDVDというお話だったら、たぶん固くお断りしてると思う。いろんな意味で今の僕は…半年後はわかりませんけどね、今はまだ自分でGOを出せない。
――自分の中のハードルが、かなり高い?
…残りますからねえ。どこの家の押し入れに入ってるかわからない、20年後30年後。それでもいいんだって部分も当然あるんですよ。CD出す時だって、それで相当迷ったんですから。成長過程のオレでいいんだと思って、踏ん切りつけて、CD出してるからいいんですけどね。おんなじように思えればいいんだけど、ちょっとまだ。 今回25人が出るということで気軽に、気軽でもないけど、お引き受けしやすかった。でも不思議なもんで、やっぱりそこは人間てやらしい
…人間て、僕がやらしいんだろうけど、たとえばね?
――はい。
映像として残るのは自信がないとか、怖いとか。まだまだ、なーんて思っていながら。たとえば25人のDVD作りましたって時、オレ入ってないとなると、きっと怒ると思うんですよ。
――(笑)
そういうところはあると思うんですよね。“25分の1だったら入れてよ!”みたいなところが
…って全然こんなの記事にできないよ(笑)! 『小言幸兵衛』の話でしたよね。
血縁関係はなくても、DNAは受け継がれる。師弟関係というのはね。
亭号別のDVDじゃないですか、今回。僕は古典落語をリクエストされたので、もっと意識してたらね、やっぱり大師匠・五代目小さんの持ちネタ、いわゆる柳家の噺というものを選んだと思うんです。柳家代表の5人のうちの1人として、“じゃあ何? 『うどん屋』? 『猫久』?”とか考えたと思う。代表的な柳家の噺を。そうすると今度はまた「じゃあ僕はちょっと…」って辞退していたかもしれない。だって他に、いわゆる柳家の噺をきちんとやる先輩方――仲間、後輩も含めて――柳家、いっぱいいますからね。
――すごく深く考えていらっしゃるんですね。
それはでも個々の個性でいいんだと。それでおずおずとお引き受けをしての『小言幸兵衛』なんです。柳家の噺、という感じじゃないですから。僕が習ったのも古今亭の師匠ですし。これは何も僕だけ、柳家だけじゃなくってね、古今亭も三遊亭も春風亭も林家も…皆さん個々の自分の活動を、噺家人生を生きてるわけじゃないですか? そう思えたら、もう構えまいと思ったんです。ありのままのオレがそのまんま出ればいいんだ、と。
――吹っ切れたと。
これはでも、亭号別DVDの取材なのに、正反対のこと言ってますよね(笑)。
――いえでも、まさに初心者としては一番わからないところなんです。亭号という流派と落語家という個人。どんな関係があるのか? 当然、柳家あっての喬太郎だと思うんですけど、師匠の場合は喬太郎の部分、個人的なキャラクターが際立っている気がします。私は落語初心者ですが、師匠の新作落語のCD『柳家喬太郎秘宝館』を聞いたら、もうおかしくておかしくて…
(笑)ホントにもう、あんなんばっかりやってスミマセン…
――大学生が今の言葉で普通に喋っていたり、渋谷のスクランブル交差点や東横線が出てきたりで、ビックリしたんです。こんな落語もアリなんだと。
お恥ずかしい。穴があったら入りたい。
――かと思えば中年離婚をテーマに、ドラマで描かれるような現代人の微妙な心のコミュニケーションを、落語のひな形に見事に落とし込んだ作品もあり。これはやはり喬太郎さんの個人的な才能によるものだろうと。そうなると、亭号って何なのか?と。
うん、でもやっぱり新作でも今回の『小言幸兵衛』にしても、そこにはなんとなく柳家の空気とか、柳家の血は流れてますからね。血縁関係はなくてもDNAは受け継がれると思うんですよ、師弟関係というのはね。だから僕が新作やったり、いわゆる柳家の代表的な演目でない噺をやっても、「ああ、どっか柳家のにおいはするね」っていうのはあると思うんです。それは僕だけじゃなく、たとえば三遊亭の方はどんな噺をやっても、やっぱり三遊亭という感じがするし。そういう意味で面白いんじゃないですかね、今回の亭号別の25人というのは。 個々の個性は際立っていても、そこのバックボーンになるものは一門なんだ、という。
さん喬師匠のおかげで、喬太郎になれた。
――話は変わりますが…昔本屋さんだったとか?
そうですよ。オレ紀伊國屋落ちたんだ、就職試験。落としやがってコノヤロー!
…スイマセン、いつも独演会などで大変お世話になっております(笑)。
――書店員から噺家になったきっかけは?
書店員から噺家になったっていうよりも、書店員やってる時も噺家になりたい思いはあったんです。ただまあ…
落語が好きで好きでしょうがなかったんで、逆に怖かったんですね。一生見ていたかった本当は。こっち側に来ないで。まだ当時は若いけど、いつかは結婚もしたいし、子供も作りたいし、普通の人生送りたかったんですよ。そんな時に舌先三寸だけで家族を食わしていくなんて、想像しただけでゾッとするほど怖くて、噺家にはなれなかったですね。 本屋は本屋で一生やろうとその時は思ってましたからね。本屋も僕にとっては大きな仕事で、ずーっと本に関わる仕事がしたかった。紀伊國屋には落ちたけど(笑)。でも書店員やってて、とても素晴らしい仕事だけど、もっと噺家の方になりたいんだなと思って。
――幼い頃から落語少年だったと聞いています。浴びるように落語を聞いてきた中で、なぜ柳家一門に入門したんですか?
うちの師匠が三遊亭だったら僕は三遊亭に、古今亭だったら古今亭になってたと思います。だから、さん喬ですよね。さん喬の弟子になりたくてなりたくて。でも入ってみたら、やはり大師匠の小さんの教えをいただいたり、諸先輩方からも有形無形の糧をいただいて…僕なりに柳家になっていった。 うん、でもねえ。浴びるほど…たしかに聞いたけど、今のお客さんたちほど聞いてないと思いますけどね。今のお客さんは本当にすごいですよ。いろんな会に足を運ばれて…僕はね、学生時代から計2年半、毎週土曜日に落語会をやる飲み屋でバイトしてたんですよ。小さんも来れば小三治も来る、大看板と言われる人も来る所だったんですね。そこだと時給もらえて落語聞けるわけですよね。
――こんなにいいバイトはない(笑)。
こんないいバイトないんですよ! お金もらえて落語聞けるんですもん。その時に生意気だけど、“さん喬師匠は今若手の真打だけど、これからきっと名人になっていく人なんだろうなあ…”って子供心に思って。その時お客の天狗さん(アマチュアの芸人)にね「なるんだろ? アンちゃんも噺家に」「絶対なりません絶対なりません!」「ならないとして、もしなるんだったら誰がいいの?」「なりませんけど…なりませんけど、なるんだったらさん喬師匠かな?」ったら、あくる日には全部広まってた(笑)。だからうちの師匠は「あそこの店のアンちゃんが、お宅に来たがってるらしい」って噂を3年聞いてたそうです(笑)。
――大学の落研時代から新作を作られていた喬太郎師匠。落語界に入門してみたら、やはり別世界でしたか?
森田芳光監督の『の・ようなもの』。僕は大学受験の時に見たんですけども、あの映画すごく好きだったんですよ。いわゆる従来の芸道ものとは違って、等身大の噺家の現代の生活を描いてて。へえと思って入門したら、本当にあの映画のままでしたね。 これから名人になっていくさん喬師匠のもとで、弟子として修行させてもらいたい。また僕はやはり新作をやりたかったので、それには古典の基礎をちゃんと学ばなきゃいけないわけだから、その意味でもさん喬師匠がピッタリだった。でね、当時さん喬師匠は40前で歳は若いし、アタマもやわらかいだろうから、新作やりたいと言っても怒らないんじゃないかな?と(笑)。それもあったんですよね。結果、大正解ですよね。 うちの師匠でなかったら、僕も務まらなかっただろうし、うちの師匠のとこに居させてもらったから、今の喬太郎という芸人になれたわけですから。
――これから古典をやる機会が増えるでしょうが、新作も是非聞きたいです。
自分のペースで無理のないように。それはもう一生作っていきますし。ただガムシャラに作って、自分もすり減って、悪い方に行くのはヤだから、ちょっと休む時期もあるかもしれないけれど…これからも等身大の新作を作っていきたいですね。
プロフィール
柳家喬太郎(やなぎやきょうたろう)
昭和38年、東京都出身。日大商学部落語研究会から書店勤務を経て、平成元年、柳家さん喬に入門。前座名「さん坊」。二ツ目時代、第1回高田文夫杯お笑いゴールドラッシュⅡ優勝、NHK新人演芸大賞(落語部門)受賞。平成12年真打昇進。平成13年彩の国落語大賞、平成16年国立演芸場花形演芸大賞、他受賞歴多数。CD「喬太郎落語秘宝館」DVD「ワザオギ落語会」等、多数リリース。
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