
「只今の協議について説明いたします!」…
大相撲の親方を彷彿とさせるビジュアルで開口一番、客席の笑いを誘う三遊亭歌武蔵師匠。 実際、噺家になる前には武蔵川部屋で力士として活躍。噺の枕でも同期だった貴闘力との取組のエピソードを始め、相撲を題材にした小咄で大いに笑わせてくれる。
大きな体に真面目な人柄。ポーカーフェイスから飛び出す、不意のクスグリ。 なんでも大相撲時代の十八番は、肩すかしにはたき込み、猫だましだったそうで…
今日はいいお客さんでした(笑)
――本日の演目は『胴斬り』。爆笑の噺でしたが。
いやネタはだって、先方から指定があったので。私は別にハイハイってお応えしただけで、ええ。
――なるほど(笑)。
持ちネタの中から一応リストを挙げて5~6席出して。「じゃあコレやって頂戴」「ヘイヘイ」って感じで。
――寄席では通常、その日になって演目を決めるということで。今回のような、前もっての決め打ちは難しいですか?
そうですね。これはDVDに限らず、落語会もそうなんですけども、そのネタにハマったお客さんならいいんですよね。前もってネタを出しておいて、それがピタッとハマるお客さんならいいんですけども、「あ、今日ちょっと違うな」あるいは「ネタ出しちゃったけど、違うな」ってことは往々にしてありますね。でも今日はいい方でしたね。
――ウケてましたよね。
お客さんは、誰が何の噺をやるかは知っていたんですか?
――開場までは知らなかったようですよ。
そうでしたか…
――今回のお客さんは寄席初心者の方が多かったようです。ですから『胴斬り』を初めて聞く人も多かったと思います。
いや、いいお客さんでしたよ。これが少し伝統的な落語会になってくると、お客さんとのズレが出てくる場合もあるんですよね。お目当ての噺家のお目当ての噺というものが、お客さんの中でハッキリしていて、「今日あの噺聞きたいなあ…」という気持ちで来るわけで。だからネタ出しのいい所っていうのは、前もって演目を予告しておくことで、それを狙ってたお客さんが来るっていうんだったら、いいんですよね。ハマった時は、こっちも「やりましょう!」と期待に応えることができる。
――ハマらない時は…
やっぱりお客さんもテンション下がっちゃいますよねえ。
――お蕎麦を食べたいお客さんにラーメンを出してしまうような?
ラーメンぐらいなら、まだいいんですけどね。
――もっと違う場合もあるんですか?
ジャンバラヤなんか出てきてね。
――(笑)
ね?ナシゴレンとか、そういうのもありますからね。
――あ~(笑)。ものすごく豊富なんですね、寄席のメニューって。
当然!味の好みは皆さんとてもうるさいです。
最近僕を脅かしてるのは、芝田山親方です
――歌武蔵師匠の高座は、これまでCD化、DVD化はされていませんでしたが?
CDのお話は何度もいただいてたんですけど、お断りしてたんです。僕はCDの噺家じゃない。映像の噺家だと思っていますから。だからDVDなら考えますけど、という話はしていたんです。CDはね、くれるっていうんなら、そりゃよろこんでいただきますよ。
――ごっつあんで(笑)。
でも出てくれっていうのはヤだ。だから僕は本当はラジオも向いてるとは思ってないんですよ。こんな太くて低くて、口跡も決していい方じゃないですし。こもる声でね。やっぱりお相撲さん声ですから。絶対映像が出た方がいいですよね。
――存在感、半端ないです!
だから最近僕を脅かしてるのは、芝田山親方ですよ。
――スイーツで出まくりですよね(笑)。
あんなに甘いもの食べられないから!現役の親方がレポーターやっちゃあマズいっしょ。こっちの生活脅かすでしょ、それは!
――元力士同士で(笑)。
まあ一応ライバルです(笑)。
男は目で恋をして、女は耳で恋をするっていうんですけどねえ。
――でも歌武蔵師匠の低音の魅力、重厚な声の響きは他の噺家さんにはない味ではありませんか?
ありがたいですね、そう言ってくれると。ただやっぱり僕は女はヘタですね(笑)。自分で今日もおかみさんやってて、ヘタだなあと思いますもん、うん。ただ落語は、らしくあればいいので、別に声を変える必要はないんですよね。
――ああ、なるほど!
うん。らしく、ぽく。“らしく”と“ぽく”が大事なんですよね。だってこんな声で、子供の声なんか出せるわけないでしょ?
――はい。枕での松井秀喜のマネがハマってました。
マネじゃなくて地声ですから!でもその声で「おとっつあん、アメ玉買ってくれよォ、ねえ。おとっつあん買ってよ、アメ玉ぁ…」って“らしく”言ってれば、ね?
――はいはい!
“あ、子供かな?子供っぽいな”っていうのは通じるじゃないですか?だからその中で、これはもう親がくれた声ですからね。これをもう使っていくしかないわけですから。 私の声がいいと言ってくれる人が、ねえ?世の中にどれくらいいらっしゃるか。あいにくいいと言ってくれるのは男性ばかりなんです!
――(笑)
本当は男は目で恋をして、女は耳で恋をするっていうんですけどねえ。
――そうなんですか?
だから火野正平さんて人は、口説くの全部電話ですもんね。女性はやっぱりねえ、声がいい男に弱いですよ。声がいいのと、あとマメね。
――はあ。
僕の声はどっちかっていうと、ウルフマンジャックとか森山周一郎さんとか、男性ウケの声なんですよね。あとは『紅の豚』とかね…飛ばねえ豚はただのブタだ!!!
僕は稽古も本意気でやるんですよ。
――高座同様、ポーカーフェースで不意のクスグリを飛ばしてくる歌武蔵師匠ですが(笑)、さきほど声の話で「“ぽく”“らしく”あればいい」とありましたけど、それも含めての人物描写。いろんなタイプの人物が落語には出てくると思うのですが、演じ分け、キャラクター作りはどのようにやっているのですか?
人物描写を特定して、ということではないのですが、僕は稽古も本意気でやるんですよ。
――ホンイキ?
他の噺家さんの稽古方法ってあまり聞いたことがないんですけれど、要するにブツブツブツブツ電車の中で言ったりとか、そんなことはしないんですよ。ちゃんと自分の家なら家、あるいは近くの公民館とか落語協会の事務所の2階とか借りて、お客さんがいるものと思って、「えー一席お付き合いを願っておきまして…」と稽古するんですよ。
――本番同様に。
(三遊亭)歌之介兄さんとかはヘッドホンかけて、飛行機の中でブツブツしゃべってますけどね。自分の声が聞こえるからいいって言いますけど、僕はあのブツブツってダメなんですよ。覚えないですね。だって本意気じゃないと、緩急のつけかた、序破急、わかんないですもんねえ?序破急をつけたいがために、僕は本意気で稽古してるんです。そうするとね。
――はい。
そうすると自ずと、たとえば
「ちわ!隠居さんいますか?」
「なんだ、誰かと思ったら八公じゃねえか、どうした?」
「どうも、ご無沙汰してまして」
…声の高さは同じくらい、隠居の方を特に低くしなくても、でも隠居の方が歳が上ってことは、お客さんにわかるじゃないですか?
――本当だ。隠居“ぽい”ですね。
それはやっぱり本意気でやってると、僕は入りやすいんですよね。他にもいろんな稽古方法があるんでしょうけど、僕の場合はそれでなんとなく絵が描けるかなと。
――落語の噺そのものが、すごくよく出来ているから、本意気でやることでキャラクター作りも自ずとできると?
そうそうそうそう。あと俳優さんを決めちゃう。たとえば今日のご隠居さんは大滝秀治さんとか、今日は高品格さんとか、自分でキャスティングしていくと絵が出やすいですよね。因業大家ったら、やっぱり高品格さんとかにやらせたいじゃないですか?そういうのはありますよね。
落語の超初心者は『男はつらいよ』見て、落語に入る!
――最後に、初心者向けに最適な一席がありましたら、教えてください。
うーん…初めて聞くんだったら、やはり『子ほめ』『転失気(てんしき)』『桃太郎』、こういったお話から入るのが一番オーソドックスでわかりやすいかな?と思いますけどね。それでも難しいと思ったら、先に『男はつらいよ』見てもらいたいですね。
――落語入門に?
あれ全部落語ですから、山田洋次さんの。だって笠智衆さんと寅さんの会話にしても、おいちゃんと寅さんの会話にしても、隠居と八公の会話と変わんないでしょ?
――…言われてみれば。師匠自身は寅さんは好きなんですか?
大好きですねえ!やっぱり秀逸なのは第8作目まで、ですかねえ。要するにおいちゃんが森川信さん。ここまでが一番じゃないですか?後のおいちゃんが悪いとは言いませんが、好みとしてはね。また志村喬さんと寅さんの掛け合いがおかしいんですよ。
「昔、旅をしてね」
「先生も旅するんですか?」
「安曇野へ行ってね。急に雨が降ってきて」
「わかりました、キツネでしょ?ね?女に化けた」
「そういう話じゃないんだよ…」
――そっくり(笑)。
ね(笑)?落語なんですよ。それで志村さんが続けるわけです。
「歩いてたら農家が見えて、明かりがこぼれていて、庭にはりんどうの花が咲き乱れて。母親が子供を呼ぶ声がして、明かりの下でみんなご飯を食べてる。それを見てなんだか急に涙が出てね…人間というのは一人じゃ生きていけないんだなあ。わかるかね、寅次郎くん?」
「よ~くわかります」
場面が変わって、柴又。おいちゃん、おばちゃん、ヒロシ、さくらの前で寅さんが。
「りんどうの花が咲き乱れてさ…」
「ウチだってりんどうあるよ」
「明かりの下でさ、みんながご飯を食べて…」
「暗くなりゃ、みんな明かりつけるだろ」
「だから、そういうことじゃないんだよ!おいちゃんもおばちゃんもやだなあ…教養のない人と話をしたくないなあ…なあヒロシくん!」
――(笑)聞きかじったことをマネしようとして、失敗するという。
隠居にならって、こっちでしくじるってパターンですよ。だから落語の超初心者は『男はつらいよ』見て、それから落語に入る!そしたら本当にわかりやすいと思いますよ。
プロフィール
三遊亭歌武蔵(さんゆうていうたむさし)
昭和43年岐阜県出身。昭和58年大相撲武蔵川部屋に入門、怪我の為に半年で廃業の後、落語家を目指して三遊亭圓歌に入門。前座名「歌ちどき」。平成10年真打昇進。平成16年国立演芸場花形演芸会・金賞、彩の国落語大賞・大賞等、受賞歴多数。通常の寄席出演に加え、柳家喜多八、柳家喬太郎との三人会「落語教育委員会」、自主興行「くらぶ歌」、海外公演等、精力的に活動中。
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