亜熱帯の広葉樹がひろがる神秘の森。どこまでも青い海。木々に波間に降り注ぐ陽の光。奄美大島の知られざる自然を3年がかりのロケで記録。奄美生まれのシンガー、中孝介(あたりこうすけ)さんの挿入歌と若き唄者のシマ唄に乗せて贈る、珠玉の映像詩。7月25日リリースのDVD『奄美  ティダぬ島 唄ぬ島』(紀伊國屋書店)の発売を記念して、推薦者の中孝介さんに故郷・奄美への思い、そしてご自身の歌にかける思いをうかがってきました。 (取材・構成/高山リョウ)

僕も知らなかった奄美がいっぱい

――最初に、DVDをご覧になった感想は?

僕は今も奄美に住んでいるんですけど、そんな僕でも全然知らない映像がいっぱいあって驚きました。素晴らしい手つかずの自然が残っている場所に生まれたことを、改めて感謝しています。

奄美は決して派手な観光地ではありませんが、そんな奄美の魅力を知っている方が撮ってくださった作品だと思います。派手なものがなくても人は生きていけるんだなとか、また逆に、人は自然には勝てないんだなとか…いろんなことを感じました。

――オープニング。光が走る海と空の映像に、『波の物語』を歌う中さんの歌声が重なって…

まさにあの海の青さというか…『波の物語』は始まったばかりの純粋な恋、相手を大切に思う気持ちを歌い、果てまで続く水平線が見えてくる歌なので、情景にすごく合っていると思います。

――青い海といえば誰もが思い浮かべる奄美のイメージですが、さきほどおっしゃった、中さんも知らない奄美の映像とは?

そうですね…たとえば海に流れ落ちる、大きな白い滝の映像です。「篠穂の滝」というんですけど、友達に聞いてみても、みんな知らないって(笑)。

――船からしか見られないそうですね。やり方次第では観光名所になる気もしますが…

だから、自分たちのいいところを外に発信しきれていないところがあるんですよね、僕ら奄美の人間って。これから僕らの世代で、外の皆さんの力も借りながら、少しずつ発信していければと思っていますけれど…

――今回のDVDも、奄美の魅力を知ってしまった(本州の)制作スタッフの熱意で3年越しで作られたとか。

だから本当にうれしく思っています。今までにも奄美のDVDは出ていると思うんですけど、みんなが行ってるような観光名所の映像が多いんですよね。この作品には島の人も知らない自然の映像がたくさんあるので、奄美の人にも見てほしいです。

僕のルーツ、シマ唄。

――奄美の大自然。中さんは子供の頃、外で遊ぶ子でしたか?

はい! 僕が生まれ育った名瀬市(現・奄美市)は島の中心だったので、ビーチまでは車で15分くらいかかる場所なのですが、海が見える場所とかは普通に歩いていける距離でしたね。子供の頃は川で泳いだり、祭りとか楽しみでしたね。

――DVDにも出てきましたね、お祭り。

集落単位で五穀豊穣を願う、豊年祭というお祭りが毎年あって。八月踊りという踊りがあるんですけど、その太鼓の音が鳴ってきたりすると、幼な心ながらワクワクしてましたね。

――男女のかけあいの太鼓で踊り明かす、すごいお祭りだとか…でもそんな島育ちの中さんでも、シマ唄を歌い始めたのは高校から。

そうですね。身近に唄う人もいなかったので、遠い存在でした。もう舞台芸能になってしまってるところがあるんですよね。シマ唄ってもともとは生活の中の娯楽で、うまいへた関係なく、みんなで楽しく唄うものだったはずなんですが…

――ついつい、どの家庭でもおばあちゃんが三味線弾いてるイメージあるんですけどね(笑)。

はい。だから70代以上の方々は、みんな普通に唄えるんですよ。ただ表に出ないだけで、集落に行けば、本当にいい唄を唄う人っているんです。でも40~50代になると少なくなるんです。戦後の教育で奄美の方言を禁止されていた世代なので、シマ唄なんかもってのほかだったそうです。

――そんな歴史があったとは知りませんでした。

だから僕がシマ唄を始めた高2の頃って、同年代で唄ってる人なんてほとんどいませんでしたね。今は10代、20代の唄者(うたしゃ)が増えてきていますけど。

――今回のDVDでも中村瑞希さん、前山真吾さんという若い唄者のシマ唄が収録されていますね。このお二方は現在、奄美で演奏会やライブを行っているのですか?

そうですね。でも唄だけが本職ではなく、仕事を持ちながら唄っています。奄美の人たちは、どんな上手な人でもみんなそうですね。沖縄くらい人口が多くて観光の需要もあれば、民謡酒場とか、唄一本でやっていけるんでしょうけど…

――その一方で中さんはポップスの世界で活躍されていて。

そうですね…でも華やかな世界で活躍しているように見えるんでしょうけど、地元にいる時は、中村さん、前山君、島のみんな…本当に普通の中孝介として(笑)接してくれてます。そこがうれしいです。

――みんな特別扱いしない?

はい、そうですね。相変わらず、みんなかわいがってくれてます(笑)。みんなの姿見てると等身大の自分でいたいなって思えますし、心の支えになっています。すごくありがたいです。

――シマ唄はやはり、今も中さんにとって大事なものですか?

そうですね。今の歌につながってるところもたくさんあるんですよね、すごく。それは昔の人の唄い方だったり、自然や心のつながりといった唄の題材だったり…シマ唄を唄ってる時から教えられてきたことを、今生かすことができていると思います。

 

歌は育っていくもの。

――話は変わりまして。9月9日には新曲『空が空』がリリースされるそうですが。

はい。シンガーソングライターの川村結花さんに書いていただいた歌なんですけど、本当にまた素晴らしい力のある作品に出会わせていただきました。この夏、ライブがたくさんあるので、お客さんと自分の間で、ライブならではの空気の中でどんどん育てていきたいと思っています。

――歌は育てるものですか?

そうですね。自分ひとりで歌ってるだけでは、やっぱり歌って育たないと思うんです。それは自分の活動をもって、本当に痛感させられていることで。ライブを重ねて、聞いてくれる人たちがいて、その人たちの顔とか目とか見ながら歌っていると、自分の中でどんどん、もっともっと…って、歌が育っていくのがわかるんです。ライブをやってこそ、一曲一曲が育っていくんだなあと思っています。 その意味で今回の『空が空』は、強いメッセージがこもった曲なので、聴く人によって、いろんなシチュエーションに自分を置き換えてもらえると思っています。

――中さんにとっても、育てがいのある歌。

そうですね。歌うことと感じることって、同じだと思うんです。これはシマ唄から教わったことですが、シマ唄ってすごくラフな感じで唄えるところがやっぱりいいなあって思うんですよね。力を抜いて、体の中から沸き上がってくる感情に身をゆだねて。それは唄う側だけでなく、聴く側も一緒で。だから聴いた方が感じたままに受け取ってくれれば、感じたままに表現してくれればといいと思います。

――高音が出なくても、カラオケで歌っていいですか(笑)?

はい、もう全然! 僕はどうしてもコブシとか回っちゃいますけど(笑)、そんなの気にせず。本当に、感じたままに歌っていただければ。

――台湾や中国圏でも人気の中さん。海外のお客さんの反応って、やっぱり違いますか?

ライブ独特の、お客さんとの空気感のやりとり。それは日本も海外も違いは感じませんね。ただ歓声とかは海外の方がよりストレートですね。日本人って、すごくシャイじゃないですか?  一緒に歌おうと思っても、なかなか最初は…

――様子、見ちゃいますね(笑)。

そうそうそう。それで次第に「隣の人もやってるから…」みたいな感じで最後はすごい盛り上がるんですけど、海外のお客さんは最初から「みんなで行こうぜ!」みたいな(笑)。

――その意味で、本州と奄美の気質って違いますか?

うーん…どうでしょうね? 奄美の人たちは、よりシャイですかね。僕なんかも、今はプロフェッショナルの意識で歌を歌っているので、それは脱ぎ捨ててやっていますけど、地元でシマの人たちと喋ってる時とかシャイな自分が出てくるというか(笑)。また、そういうところに美を感じたり。

「なつかしゃ」の気持ちを伝えていきたい。

――最後に改めてDVDについてお話を。オープニングの『波の物語』の他に2曲、『ホノホシの風』『なつかしゃ』と中さんの歌が使われています。

ホノホシ海岸という丸い石の海岸があるのですが、『ホノホシの風』はそこの映像で使われています。もともとはカクカクした、岩が崩れて石になったものが、波に打ち寄せられているうちにぶつかり合って、カドが取れて。人の人生とかもまさにそうで、いろんな人と出会って、どんどんカドがとれて…海岸の石と人の人生、そういうところから生まれた歌です。

――そしてエンディングに流れるのが、『なつかしゃ』。

奄美で「なつかしゃ」という言葉は、人の心の琴線が触れる瞬間のことを言います。たとえばきれいな景色を見て感動する心、音楽を聞いて感動する心。誰かにかけられた言葉に元気づけられたり、久しぶりに会った人を見てすごく愛しい気持ちになったり…そういう時に「なつかしゃ」って言葉が思わず沸き上がってくるんですね。

――奄美の暮らしで生まれた、日々の感動を表す言葉。

「あの人の唄はなつかしゃ」みたいな感じで、シマ唄の唄者にも使うんですよ。今ではシマ唄の唄いかたも現代風になってきているんですけど、僕は昔ながらの節回しが味があっていいなと思うんです。独特のうねりというか、言葉にできない思いを自然に表現できるんです。お年寄りから、「あんたの唄は昔ながらのマゲ(節回し)でなつかしゃ」って言ってもらえると嬉しいですね。 今歌っているポップスも、そんな「なつかしゃ」という気持ちを伝えられればと思って、僕はいつも歌っています。

――「最後は絶対『なつかしゃ』!」というところから、DVDのスタッフは曲選びや構成を始めたそうですよ。それで中さんの歌のイメージにふさわしい映像を、改めて撮影に行ったり。

そうなんですか!?  自分の歌ではありますが、このDVDを集約してくれてる、いろんなものが詰まっている歌で、よく最後に選んでいただいたなと思っていました。映っている景色すべてがいとおしい、なつかしいと感じさせてもらいました。 奄美にはまだまだ知られていない素晴らしい場所があるし、素朴な生活を送っている人たちもいます。これからもいろんな方々にご協力をいただいて、奄美の魅力を伝えていきたいですね。

 

プロフィール

中孝介(あたりこうすけ)

奄美大島名瀬出身、在住。1980年生まれ。高校時代に独学でシマ唄を始め、00'年に日本民謡協会の奄美連合大会で総合優勝。06'年にポップスシンガーとしてデビュー。代表曲『花』は世代を超えたヒット曲に。07'年リリースの1stアルバム『ユライ花』はオリコンチャート7位を記録。08'年、2ndアルバム『絆歌』リリース。中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』は台湾チャートで1位に。来る9月9日には最新曲『空が空』をリリース予定。

バックナンバー

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作品紹介

『奄美 ティダぬ島 唄ぬ島』

奄美の自然を丹念に描いた珠玉の映像詩。中孝介の歌と、若き唄者によるシマ唄に乗せて贈る、至福の1枚。収録曲に『波の物語』『ホノホシの風』『なつかしゃ』(中孝介)、『豊年節』(中村瑞希)、『長雲節』『渡しゃ』(前山真吾)、『いとぅ』(中村瑞希・前山真吾)。

販売価格:¥3,033 (税込)(24%OFF)
発売日:2009/07/25
収録時間:42分