
7/15に最新CD「三遊亭円丈落語コレクション 8th.」(ワザオギ)をリリース、新刊「ろんだいえん~21世紀落語論~」(彩流社)も好評発売中の三遊亭円丈師匠。新作落語の第一人者として長年にわたり挑戦を続けてきた師匠であるが、今回のCDでは円丈流の古典落語を収録。落語ブームと言われ、新作の実力者も増えてきている現在。新作の第一人者が古典のCDを出すに至った理由とは? そこには現在も挑戦を続ける“芸人・円丈”がいて…
ブーム? 来たけど終わったような。
――折からの落語ブーム。CD、DVDのお買い上げも増え、当サイトでもこのようなページができました。大ベテランの円丈師匠、ブームの実感はございますか?
はい、だから、来たけど終わったような。
――も、もう終わってますか(笑)…
人によっては、新たなお客さんが入ってきた感じを持ってる人もいますね。若い女性のお客さんが増えたとか。僕もついこないだ「無限落語」って落語会をやって、わりとお客さん入ったんですけど、なんでこんなに女性が多いのかなあってね。
――それでもブームは終わったと?
そんなに、だって。落語はそんなに、あの、その、…そういうもんですよ。地道なもんですからね。 2~3ヶ月くらい前から、各寄席も少しずつお客さんが減ってるんじゃないですか? 企画によってはドーンと入るんだけど、平均すると少し落ちてる感じ。
――現場の実感として。
でもやっぱり一番落ち込んだのは世紀末ですよ。2000年。あの頃、ドーンと落ちたんですよね。だって、新宿(末廣亭)さんもアブないとか、他の寄席もあと何年もつとか…僕なんか本当に心配しましたよね。あれから思えば、今はもう夢のような話ですよ。こういう時代が来るとは思わなかった。
――言葉に重みがあります。
ただなんていうんですか、ろくでもない話をするんだけど。僕、2000年に綾瀬稲荷に落語狛犬を奉納したんですよ。
――あ、はい。
「落語繁栄」を祈願したんですけど、アレが今になって成果があがってきてるんですね!
――な、なるほど!?
時代のズレは、そりゃ5~6年は神の世界では当たり前っていうか。10年までは誤差のうちでね。でも宮司さんが偉い人で、今も毎日お勤めで落語繁栄を祈願されてるみたいですよ。まあ本当に効果があったかわかりませんけど。僕の収入もそれほど上がってないし(笑)。
――(笑)。円丈師匠の落語「横松和平」でもガラガラの寄席が出て来ますが、10年前は本当に厳しかったと?
昭和50年代から緩やかな低落傾向がずーっと来てて、これが永遠に続くみたいな。ホント、だからあの頃は、落語もあと20~30年かな?みたいな感じはしましたね。やっぱり昭和40年代がピークで。50年代に入ると、(六代目三遊亭)圓生が死に、(初代林家)三平師匠が亡くなり…ひとつの時代が終わったのかな、みたいな感じがありましたね。
――時代の変わり目から冬の時代を過ぎて。円丈師匠が第一人者となって演じてこられた新作落語。師匠のお弟子さんの三遊亭白鳥師匠ほか、新作の実力者が増えてきている現在。なにか感慨はありますか?
いや感慨はないですよ、僕は。それは全然ないです。僕も務めっていうか、やらなければいけない自分の仕事がありますからね。ただ、もっと育てられたかもと思いますね。入門志願してきた弟子を全部取ってたら、30人は超えてますね。ダメな奴だけ取ってたのかもしれない。僕ほど人を見抜く力のない奴はいない(笑)。
――そんな(笑)。
こないだ、9番目の弟子を取ったんですよ。その3日後にもっと若い奴が来たんですけど、今の若い人はお笑いを通過してくるから、M-1やR-1に出てるんですよね。2人ともそうでした。やっぱり両方取るべきでしたね。それで競わせる、逆にお互い助け合う。切磋琢磨して育っていくんじゃないかって。
――やはりお弟子さんの気質は変わってきてますか?
や、わかんないですねえ。ただウチはここんとこ30代が多い。年齢は上がってきてるみたいですね。僕らの頃は20代前半まで。20後半になるともう年寄でダメだよって言われてたんですよね。ウチに一番上で入ってきたのは、40で入ってきましたからね。9人の弟子の中で一番子供っぽいけど。
――はあ(笑)。
40で入るからにはすごい覚悟をして来たんだろう…っていうのは全く違ってて。全く覚悟がないから入って来れたということが、入門9年目でわかった(笑)。やっぱりその中で白鳥は最初から光ってましたよね。「時計でギャグ作れ」とか言うと、1分くらいで5~6個作るんですよね。回転が早いっていうか、やっぱり何か…何か違いましたよね。
落語は大衆芸能。「今」がなければ。
――今回リリースされたワザオギレーベル第8弾となるCD。「豊志賀の死」「新・ガマの油」と古典を円丈流にアレンジした演目となっていますが、完全オリジナルの新作落語との違いは?
いつも考えてるのは、差別化したいということ。みんながやる「豊志賀~」と僕がやる豊志賀が同じだったら、それは他の人たちにお任せしたいというか。僕はやはり、豊志賀に対する視点が違うんだと思います。豊志賀という40近い女師匠――昔40っていうとおばあさんですからね――が息子のような若者に恋をする。この設定自体が「今」、まさに「今」なんですよね。
――たしかにタイムリーですね。年下のイケメンへの叶わぬ恋。
だから僕はこれを絶望のラブストーリーとして演じています。それで女性の方からの感想というのが、みんな「豊志賀がかわいそう」って言うんですよね。 クライマックスには僕が考えたワンシーンが追加してあって。 鏡のようなお盆に豊志賀の顔が映ってるんですけど、実はその上の中二階で豊志賀が首をカミソリで切ってるんです。ポツ…ポツ…ポツ…したたり落ちた血が溜まって鏡みたいになっていたんですね。
――CDを聞きましたが、耽美的でゾクッと来るビジュアルが浮かびました。
あなたのことは全て許す…いまわの際に豊志賀はそんなキレイごとを言ってるんだけど、ヒラヒラ落ちてきた書き置きには「お前の妻は7人までとり殺す…」と。そのへんのギャップ? 永久の嫉妬と永遠の愛と。
――テーマとしては普遍的なんでしょうが、現代女性ならではの複雑な感情が盛り込まれている気がしました。
愛と絶望と怪談噺がないまぜになった所でスーッと終わる。僕は「真景累ケ淵」の中で「豊志賀の死」が一番好きで、たぶん他の場面はもうやらないですね。
――現代という時代、かつ円丈師匠の世界観とも合致するのが「豊志賀の死」であると。
あとは、わりと僕は女を演じられないと思われているんですけど(笑)、実はけっこう演じられてしまうところもあって。この豊志賀もけっこうイケるんじゃないかと思います。そしてやっぱり、私の師匠・圓生の芸も継承している、そういうところもあります。三遊亭の十八番みたいな演目でもありますからね。
――古典の名人、圓生師匠。そして新作の第一人者、円丈師匠。似ても似つかない師弟と言われていたそうですが、圓生師匠の年齢に近づいてきて、古典に対する考え方は変わりましたか?
いや、考え方自体は僕は全く変わってないですよ。変わってないですけど、ちょうど僕、今年が圓生に入門した年の師匠の年齢なんです。64歳。同い年になってみて気づくと、兄弟弟子は殆ど寝てたり(笑)、なかば死に絶えたような状態で。三遊亭の血を引くものとして、やんなきゃいけないこともあるだろう、みたいな。
――その意識もあって、古典をセレクト?
僕は新作の落語家ですが、最低限は古典をちゃんとやっておこうと。もうひとつは弟子に古典の芸をきちんと教えよう、下の世代に継承しようと。その両方ですね。
ただ落語に対する考え方は変わりませんよ。落語は大衆芸能なんだから、「今」がなければいけない。それは古典でも新作でも同じ。どこかに共感できる「今」がなければ、その落語は本当つまんないと思いますね。…昔、こーんな凄い人がいたよ!!!って話をされても、今全然いないような人種だったら、どんなに大活躍しても面白くないですよ。
――そうですね、ピンと来ません。
そうですよね、ピンと来ないんです。やっぱり落語っていうのは「共感」だと思いますよ。だから古典をやるうえでも僕の場合は、「今」をどこにどういう風に入れるかが大事なんです。
年をとるって、くだらないことですね。
――去る6月には新刊の著書『ろんだいえん~21世紀落語論~』(彩流社)も刊行された師匠ですが、オビには「これは円丈の遺言である」との過激な一文も。
落語の演じかた、作りかたですか。あと落語論とかまとめたものですけどね。たぶん30年経っても考えかたとしては変わらないだろうと思って書いたんですよ。遺言みたいな気持ちで。
――では、プレイヤー向きのバイブルとしても実用性が?
なんかあるみたいですねえ。お笑いやってる人にも有効なんじゃないかな? でもそれこそ雑誌の編集者こそ読んだらどうだって思う内容ですけど。
――言葉を扱う仕事をしてる人なら、どんな職種でも。
けっこう汎用性は高いみたいですね。でも噺家とか落語ファンには複雑なところもあるかもわからないですね。書きすぎたところがあるから。でも仲間や関係者から多少バカヤローとか言われても関係あるか、今言うんだって。僕はね、今言わないと死んじゃうんですよ。
――…(笑)。
だから、今。僕が19歳でこの世界に入った時、先代の(柳家)小さん師匠は48歳だったんですよ。先代の(金原亭)馬生師匠なんて30代ですよ。みんな大いばりしてたんですよ。で、僕は64になって、今言わなかったらいつ言うんだって。「東京かわら版」の佐藤さんからは、演じかたの秘密とか、ここまで教えなくていいんじゃないかとも言われましたけど。だからそこまで書いてある。でも、そこまで書ける人がいたのか?とも言える。
――ああ、なるほど。はい。
だから本当に生前贈与、遺言なんだと思います。あと僕が死ぬまでにやんなきゃいけないことは、作品集を3冊か4冊にして出すこと。僕の人生は、もうそれでいい。おしまい。あんまり自分の生にそんなにこだわってもいないから。
――うーん、何とも…(笑)。師匠のWEBでは「あと20年」というフレーズがよく出てきますが…
はい、だから、長生きするよってよく言われるんですよ(笑)。もう長生き大嫌いなんですけどね。老いることが許せないというかね。記憶力は落ちるし、言葉は古くなっちゃうでしょ? 新しい言葉、入ってこないんですよ。新しい言葉をピックアップして一覧表みたいに作ってはいるんですけど、そんなもの見ながら出てきた言葉なんてのは…。 年をとるって、くだらないことですね。だから感覚的なものは全く衰えていないのを感じるんですが、それを表現系に変えた時、言葉が古いとか引きずるものがあるわけ、64の。それがヤなんですよね。
――手塚治虫先生も晩年おっしゃってたみたいですね、アイデアはいくらでも出てくるけど目と手が追いつかない、みたいなことを。
ああ、そうですか。似たようなところ言ってるのかもしれないですね。いや本当にあの、情けないですよ、本当に。18歳に戻れるなら、すぐに戻りたい。今までやったの全部チャラにして。
――えー!?
こないだNHKだったかでファッションショーやってたんですよね。若い子たちが今の最先端の格好をしてて、男の子も女の子も、僕が共有したことのない人生を持ってて。オレも18だったらあそこ行きたい!って思いましたね(笑)。僕らの世代じゃペンキ塗ったジーンズ履けないですよ。ケツ半分出して履けるのかって。
――(笑)。
いや、それなんですよ。そこなんです。ケツ半分出したような奴が新作作ったら、全然違うものを作ると思います。ストーリーの構築のしかたも、感ずるところ、拾い集めるところも違うでしょうね。
今のお笑いの人たち、すごいですよ。
――そういった意味で、今のお笑いで注目している芸人はいますか?
いやいや、みんな素晴らしいじゃないですか? 本当に、お世辞じゃなくて。ひと昔は、芸は本当にセコいけどギャグを飛ばすセンスだけはいいって人が多かったけど、今はそれが淘汰されて、芸がよくて感覚的にもそこそこのものが飛ばせる、みたいなね。ものすごくレベル上がってると思いますよ。
――そうですか?
じゃあお前、今のお笑いでどれだけできる?って言われたら、僕は正直自信ないですよ。今のお笑いは一番時代の最先端。そういう所にはものすごい才能のある人間が集まってきてるんです。だからお笑いだけに集中しないで、映画監督とか他の業界にも散れよって思うほどですね。
――ただ、今のお笑い芸人って瞬間、瞬間は面白いのかもしれないけど、いかんせん賞味期限が短い気がします見てるこっちまで消耗してくるような…
はい、だから、長くは彼らも持続できないでしょうね。64までできるかっていうと…途中で死んじゃうでしょうね。
――300とも言われる新作落語を作ってきた師匠から見ると。
そんなにねえンじゃねえかな(笑)。200…いやその半分くらいかな? とにかくねえ、数はどうでもよくて、結局今使えるものがどれだけあるか。僕、狛犬が趣味なんですけど、名工と呼ばれる人に聞いても、生涯で人を感動させられる狛犬をどれだけ作れたかっていうと、ホントもう3つとか4つだそうですよ。そんなもんなんですよ、人間なんて。だから我々生きてたって、そんな大したこともできずに死んでいくんですよ。100も200も、作りすぎたね。
――達観というか…
ただネタを作るのは、いつも僕にとって宝さがしなんで。宝さがしの一生なんですよね。面白い素材を探して、それをカーッ!!!と仕上げて、ウケるかどうか試していく。それは僕にとって、何物にも代え難い宝なので。そういう宝は、これからもひとつひとつ増やしていきたいと思っていますよ。
「オンバト」に出たい! 頭にハードディスクを埋め込んでほしい!
そうそう、僕一回ね、NHKの夜の番組…爆笑オンエアバトルだっけ? 申し込んだんですよ。
――えー(笑)!?
そしたらみんなで会議開いたって(笑)。「新人のための番組ですので…」と丁重なお断りが来ましたが、くやしかったですね。落語やらなきゃいいわけだから。そしたら僕だって新人なんだから。
――すごいチャレンジャー精神ですね…
僕、ウケないとか蹴られるってことに対して、全然何も感じないですからね。今までもずいぶん負けてきたけど、ウケるつもりでやってウケなかったんだから、それはしょうがない。失敗を恐れないから、なんてことないです。それよりもやらなくて後悔する方がイヤですね。すくなくとも僕は、ああいうお笑い番組で選ぶ側には回りたくないです。
――審査員席の方には。
だって、人を選ぶのにふさわしい人間なんていないじゃないですか? なんでコイツが選ぶんだ?みたいなヤツだっていますからねえ。「お前は人生で何したんだよ、コノヤロー!?」って。僕は選ぶんだったら、選ばれる方がいいですね。
――生涯現役で。
昔いくら面白かったとしても、今つまらなかったら意味がない。昔の自慢しかできない大御所にはなりたくない! それに落語もお笑いの中に含まれているわけだから、やはり僕はお笑いの芸人であり続けるためにも、同じ土俵で勝負がしたい。だからああいう番組にも出てみたいですね、本当に。
――落語ブームがどうとか、円丈師匠には関係ないようですね。
次のブーム? 今生きてる間は無理でしょうねえ(笑)。それよりも僕は体内にハードディスクみたいなものを埋め込んでほしいです。人間の頭に入れる記憶媒体みたいなもの。頭の一部、機械になってもいいから(笑)。いや笑ってるけど、そんな大したメモリいらないですよね? 1Gはおろか100MBもいらないでしょう? そろそろ、できないですかねえ???
プロフィール
三遊亭円丈(さんゆうていえんじょう)
1944年愛知県出身。明治大学文学部演劇学科中退。高校時代より落語家を目指し6代目三遊亭圓生に入門、「ぬう生」となる。13年の修行後、「円丈」で真打。新作落語で頭角を表し、ラジオ・テレビでも活躍。主な著書に『御乱心』(主婦の友社)、『ろんだいえん~21世紀落語論~』(彩流社)。CDは今回リリースの最新作を含め、「三遊亭円丈落語コレクション」としてワザオギレーベルから現在8本リリース。
バックナンバー
- 2009.7.10 最新CD「三遊亭円丈落語コレクション 8th.」リリース三遊亭円丈師匠インタビュー
- 2009.7.08 『築城せよ!』海老瀬はな単独インタビュー
- 2009.7.01 DVD『とっておき寄席!』春風亭小柳枝師匠インタビュー
- 2009.6.23 DVD『PHOTOVISION O2O2』リリース!フォトグラファー・浅川英郎さんインタビュー
- 2009.6.23 『深海獣雷牙』公開!林家しん平監督インタビュー
- 2009.6.19 『篠田正浩監督作品セレクション DVDボックス』発売!篠田正浩監督単独インタビュー
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- 2009.6.10 「ロス:タイム:ライフ」武田真治さん単独インタビュー
- 2009.6.5 DVD『とっておき寄席!』林家彦いち師匠インタビュー
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