スピッツや奥田民生など、数多くのCDジャケットを撮り続けてきたフォトグラファーの浅川英郎さん。その浅川さんが7月3日、初のDVD『O2O2』をリリース。 “PHOTOVISION”とジャンル分けされた本作は、いわく、「動き出す」DVD。 日常で撮り溜めた写真をベースに、ROBOTのグラフィック・エフェクトと、タザワコウダイ(ex.スーパーカー)とミユキ(プロデューサー/クリエイター)によるエレクトロ・バンドのaMのサウンドをMIX。 みつめるうちに動き出す映像、見るものをひきずり込んでゆく音楽。写真が動いているのか、見ているこちらの意識が動き始めたのか…無意識に訴えかけるような、不思議な映像体験。 気鋭のクリエイター達とのコラボレーションで、映像ソフトの新しい表現方法を生み出しした浅川さんにお話をうかがいました。 (取材・構成/高山リョウ)

“みつめることでひろがってゆく”


――とても不思議な映像体験でした。あるカットで風景の一部がじわじわ動き出したと思ったら、別のカットでは樹木がザワザワと渦を巻き始めたり…

そうなんですよ。

――エフェクトで動いているカットもあれば、実は絵は動いてないカットもあって。映像が動いてるのか、自分の意識が動いてるのか、だんだんわからなくなってきて…

そうなんです。今回、“みつめることでひろがってゆく”というコピーを考えたんですけど、実際はスチルの止まっている写真が、意識次第では動くように見えるのは面白いなって。ステレオグラムってあるじゃないですか?  点描みたいな模様をみつめていると文字や絵が浮かび上がってくるヤツ。ああいうの、僕大好きで。

――大音量のヘッドホンで鑑賞してたら、ぐんにゃり、恍惚な感じになりました(笑)。意識と無意識の間みたいな。

リリースにあたって、いろんな方から感想やコメントをいただきましたが、スピッツの草野くんからは「夢と現実を行ったり来たりしながら、美しい時間が過ぎていく」って。言葉で表現するのは難しいDVDだとは思いますが(笑)。

――今回、この不思議なDVDを作られた経緯を聞かせてください。

去年、冬青社という出版社のギャラリーに声をかけていただいて『O2O2』という初の個展をやったんですが、思った以上に盛況で。見に来てくれたミュージシャンの方々がホームページで紹介してくれたり、気に入ってくれたレコード会社の方がまわりに宣伝してくれたり。写真もけっこう売れまして。 ただ自分の中では、個展のために作品として写真を撮っていたわけではないんですね。そもそも僕は音楽好きで、CDのジャケット写真を専門でやりたかったからカメラマンになったわけで。

――ジャケ写ありきで。

もっと前は映画がやりたかったんですけど、大学で日芸の映画学科落ちちゃって、滑り止めの写真学科に受かって。実家が写真館だったので写真を撮ることに違和感はなかったですけど、学生時代も作品を撮っていたわけでもなく。ジャケット撮るために、スチルカメラマンになっていったわけです。 だから僕は作家性が自分にあるのではなく、CDの世界観やイメージを作るために、ミュージシャンの人たちと一緒に仕事を作ってきたんですね。

――なるほど。

そうするうちに「浅川さんて、普段写真撮るんですか?」とか「作品は撮られてるんですか?」とかいろんな人に聞かれるようになって。僕にとってはジャケットが作品なんですけど、それは仕事、商売としてやっているものでしょう?と多くの人は思っていて。

――食べるための商業写真とは別に、芸術的な写真を撮ってるだろうと。

そういうの、僕、なくて(笑)。ただ、ジャケットが作品という考えは変わらないけど、あまり色々聞かれるのも自分もイヤなところがあって、ある時からプライベートでもカメラ持つようになったんですよ。

 

「面白いやり方があるから、できるかもしれませんよ」


ただそういう時、何かテーマを決めて撮ると…まあだいたい良くないんで、何も考えずにカメラ持ち歩こうと思って。あ!って思った時だけ撮ろうと。最初は空ばっかり撮ってましたね。ロケ先とか旅先とか、いろんな所で。 そうしたら、今回のDVDにも、02'年に出した写真集『waniwani』にも入ってる写真ですけど、01’年の9月11日に撮った写真とか出てきてしまって。

――911のテロの日ですね。

テロ起きる前、5時間前くらいの東京の夕焼け空なんですけど、その時はただキレイだなと思って撮った写真も、「これ、あの日の空だ…」って後になって、なんか忘れられない空になっちゃったり。

――偶然のシャッターチャンスが、後々意味を持ち出して。

言葉で説明するのは難しいんですけど、自分なりに点と線がつながるような写真群が集まってきて。個展のオファーをいただいた時、数年撮り溜めた写真群の中から半年かけて30点ほどの写真を厳選したわけです。 それで先ほど話に出たレコード会社の方から話が伝わっていって、今回のmother earthレーベルさんからDVDのお話をいただいたんです。

註)mother earthシリーズとはエコロジーをテーマにしたDVD。スライドショー形式で鹿児島と北海道の自然写真とヒーリング音楽で構成。

僕の写真はヒーリング系とは違うし、ヒーリング的な要素もあるのかもしれないですけど、そういう視点で撮ったわけではないので、最初はなかなか難しいと思いました。一番難しいなと思ったのは、写真の数。過去2巻とも150点くらいの写真を50~60分くらいで見せていた。僕が個展に出していた写真は30点。せいぜい足せて10点。

――写真の数が足りない。

「写真40点で、がんばって40分…たぶん無理だと思います」って最初お断りしようと思ったんですよ。ただ自分の中で半分面白そうだなって興味もあったんですけど。 その時にROBOTの山城君、今回の作品をメインで制作してくれた彼から、たまたま飲みの電話がかかってきて。 「今、実は面白そうな話があるんだけど、でもどう考えても40点で40分って無理だよね?」って話してみたら、「いや、それもしかしたら、面白いやり方があるからできるかもしれませんよ」って話になって。

――ROBOTのCGの技術で。

それでモーションアーティストの大石君と彼と、3人で会ったんですよ。僕の写真を使って、こういうモーションとか、こういうモーションができますよって、いろいろやってみせてくれて。写真の一部だけ動かしたり、そこかしこが動き出したり…見たら面白かったんですよ。「これだったらもしかして、ずっと見てられるかも…」って。

――従来のスライドショーとは違った感覚があった?

そもそも写真っていうのは、写真集にしても自分のペースで見たり、気に入った写真をゆっくり見るものだなって思ってたので、これなら新しい時間軸で映像化できるかもしれないと思いましたね。 “静止画を動かす”って発想が生まれたことで、この企画を受けられたというか。 この10年、僕はミュージックビデオやCMの仕事でフィルム回す機会も増えてきて、動画をやっていくなかで「写真ってなんだろう?」とか、写真から見て「動画ってなんだろう?」みたいなことをずっと考えていて。写真と動画、どっちでもない表現で面白かったんですよね。

「で、動きます」

過去2巻のmother earthシリーズではアコースティックな音楽を使っていたのですが、僕の写真はアコースティックな感じではないし、個展の時もエレクトロな音楽を流していたんです。それで以前ジャケ写を撮ったスーパーカーのコウダイ君のバンド、aM(アム)に参加してもらうことになって。 曲があがってきた時、「こういう音か!!」と一気にインスピレーションが刺激されましたね。“エコロジーを危機感として捉えました”みたいな、ものすごいインパクトのある重い音だったので。 最初、写真の点数が足りないと心配していたのが、音を聞いてからは「あ、これあったら面白いな」って、音楽にのっかる形で写真がどんどん増えていって。

――浅川さんの写真、ROBOTのグラフィック・エフェクト、そしてaMの音楽が一体化していったんですね。

最初は僕の写真があって、それをモーションで動かして、そこに音楽を作ってもらっていたのが、途中からは納期の関係もあって(笑)、写真とモーションと音楽が同時進行になったり、僕から音のリクエストを出して作ってもらったり…絵が先か音が先か、ちょっとわかんないくらいの共同作業になっていって、楽しかったですね。

――ゴゴゴゴゴ…とサラウンドで鳴り響く、不気味で美しい音。虫みたいに密集した住宅の航空写真とのMIX加減が、いい意味で気持ち悪かったです。

たとえばハチの巣パッと見て、「あ、きれいだ!」って思いながら、よく見ると全部に幼虫がいてウワッ!!!って思ったりする、あんな感じ。 角田光代さんからは「不気味でキュートで、こわくてやわらかくて…」というコメントをいただいて、自分もそう感じながら作っていたので、うれしいなと。 「あ、でも不気味が最初に来ちゃうんだ…」と思いつつ(笑)。

――“よく見たら気持ち悪い日常風景”を撮られているなあと。

それはありますね。また、もともとは美しかったり、あるいはバカバカしかったりする写真なんですけど、音楽で深読みできる要素は生まれたでしょうね。

――ジャケ写を撮り続けてきた浅川さんならではの作家性でしょうか?スピッツや奥田民生、スーパーカーのジャケ写を見た時に連想される、トータルなアーティストのイメージ。それに通じるものを『O2O2』には感じます。

どーんとしたPOP感みたいなの、僕好きで。それは民生さんの『股旅』の空だったりすするかもしれないですね。

――無意識で撮っているようで、ハッキリと伝わる方向性がある?

僕の写真がどこに向かっているのか、自分でも全くわからないですけど(笑)。「あ、今、撮らなきゃ」とか「俺、なんでコレに反応しちゃうんだろう?」的な感覚でしか撮っていないし。 自分なりにいろんな事のつじつまが合ってきてはいます。 最初、02’年の写真集『waniwani(ワニワニ)』の語源は僕の故郷の甲州弁で「ふざける」という意味。去年の個展のタイトルもそこから『O2O2(ワニワニ)』と表記を変えて。今回DVDでは『O2O2(オーツーオーツー)』で酸素記号に変えて、エコ的なニュアンスも持つようになって…

――個人的には、今回の『O2O2』にストーリー性のようなものを感じました。それを言葉で表せと言われると…難しいのですが(笑)。

難しいでしょ? 今のところ「DVD写真集です」って説明するしかなくて。あと「サラウンドです」とか(笑)、わかりやすい言葉を並べたり…それで最後の最後に「で、動きます」と。

 

プロフィール

浅川英郎(あさかわひでろう)

68'年山梨県出身。90’年、日本大学芸術学部・写真学科卒業後、流行通信社スタジオ入社。同年フリーランスとなり、音楽関係を中心に活動、CDジャケットを多数手がける。99'年よりムービーカメラマン、ディレクターとしてミュージックビデオの制作、04'年よりCMの撮影・演出もはじめる。02'年、作品集『waniwani』(ソニーマガジンズ)を出版。08'年、初個展『O2O2』(ギャラリー冬青)。

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