路上に暮らす天才音楽家とロサンゼルス・タイムズの記者の実話に基づく魂の交流を描く『路上のソリスト』。ジェイミー・フォックス、ロバート・ダウニー・Jrといった世界的に認められている演技派同士の豪華共演も話題を集めるなか、原作者のスティーヴ・ロペス氏が来日。名コラムニストの、貴重なインタビューが実現した。(取材・構成・撮影/床板京平)

彼は誰にも真似が出来ない情熱を持っている人さ――

―― 最初に自身の原作が映画化されると決まったときはどのような感想を?

最初はまさか自分のコラムが映画化されるとは思っていなかったよ。ナサニエルと知り合って半年ほどで映画化の話がきて、そのときはまだ書籍化はされていなかった。ナサニエルと出会ってから1年ほど経った頃に彼との関係も親密になったので、具体的なことを考え始めた。いまですら実写になっていることにシュールな感覚を覚えているのに、3年も前にドリームワークスが映画化権を―なんて話はクレイジーにしか思えなかったよ(笑)

―― そのナサニエルを演じたジェイミー・フォックスは実像に近いですか?

こうしてプレスシートを観ていても思うけれど、本当に似ている(笑)。3フィート離れたところから観たらまるで本人と見分けがつかないほど。ああ、外見のことを言っているわけじゃないよね(笑)。答えとしてはイエスさ。ナサニエルの日々の挑戦、才能や情熱などが間違いなく、しっかりと描かれている。彼は普通の人に比べて多くのものを失ってはいるけれども、その代わりに誰にも真似が出来ない素晴らしい情熱を持っているんだ。

原作本が出版されたときに彼に責められたことも――

―― ところで、ナサニエルさんは今回の映画化についてどのような感想を?

彼はポップカルチャーにはまったく共感しない。TVなども観ない。画面上に幽霊が踊っているように感じ、恐怖しかないそうだ。本を執筆する段階で彼の了承をもちろん得ていたし、協力もしてくれた。ただ、出版されたときに過敏に反応して激昂したことがあった。僕自身も責められ、ブルーになった時期があったよ。その後、彼から連絡があり、自分が読みにくい箇所を読み、思わず怒ってしまったと説明を受けた。とてもうれしかったよ。

―― 自身のエピソードが赤裸々に描かれているため抵抗を示したのですか?

統合失調症からの回復には自分の症状を自覚するステップがとても大きいらしく、精神科の専門用語でいうとインサイト(=自認する)ということのようだ。じつは激昂するということは、そのプロセスを経ているのでホッとしたのだが……。彼は自分が統合失調症であることを理解していることも多いが、ときには自分は違うと言ってみたりする。精神疾患は恥だとね。そして本に対する反応を今度はこの映画に対しても見せてしまったんだ。

彼と音楽を体感することほど素晴らしいことはないよ

―― 完成した映画版ですが、ナサニエルさんはご覧になっているのですか?

ある日、映画が完成して彼と一緒に試写に行ったんだ。もちろん彼が映像を観ることはない。ずっと目を閉じて音を聞くだけだ。辛そうだったのは自分がブレイクダウンした瞬間を思い出すシーンだったと思う。室内で暮らすことを拒む理由の1つに、室内で生活していたときに“壊れて”しまったからだ。とても大変だったと思うけれど、3年ぶりに屋内に入った勇気に考えさせられたし、今後も続く友情のなかでまだまだ勉強も多いだろう。

―― ご本人だけでなく、もともとのコラム読者の反応も大きかったそうで?

チェロが2台、バイオリンが5台、ピアノが1台ほど届いたよ(笑)。彼が活動できるスタジオを建設したときにピアノを贈ってくれた女性も来た。自分のコラムの読者たちが、そこまでいろいろとやってくれるのはとてもうれしかったよ。最近は彼と一緒にコンサートへ行くことも多いのだが、顔がばれてしまうこともある。サインを求められたりね(笑)。大変なことも多いが、彼を通じて音楽を体感することほど素晴らしいこともないんだ。

 

プロフィール

スティーヴ・ロペス(原作)

ロサンゼルス・タイムズのコラムニスト。この紙上でナサニエル・エアーズについてのコラムを連載。全米中の大反響を得る。2008年、エアーズとの交流をもとにした著作を出版した。これまで3冊の小説を出版しているほか、タイムやザ・フィラデルフィア・インクワイアラーを含め、数多くの著作でいくつもの賞を受賞している。

バックナンバー

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作品紹介

『路上のソリスト』

奏で続ければ、いつかきっと誰かに届く。

それは、現在も連載が続くロサンゼルス・タイムズのコラムから始まった。最上級の演技と演出のリアリズムがうみだす感動の実話。

●公開表記 5/30(土)、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

●コピーライト表記
(C) 2008 DREAMWORKS LLC and UNIVERSAL STUDIOS

●配給 東宝東和