
裏社会に生きる男たちの友情やロマンを描く香港ノワール・アクション『エグザイル/絆』。香港映画界の鬼才ジョニー・トー監督の最新作で、中国返還が迫るマカオを舞台にした熱い男のドラマに世界各国が賛辞を贈っている話題作だ。公開を前に主役格の男を演じたアンソニー・ウォンが来日。円熟味を増した名優に話を聞いた。(取材・構成・撮影/床板京平)
トー監督は真剣に撮影に臨んだから、この映画が世界中で高い評価を得ていると思う
――『エグザイル/絆』は、本国をはじめ、アメリカや世界中で評判がいいですね!
これまでのジョニー・トー監督の作品に比べて、私も非常にトー監督らしさが出ているように思う。撮影中のトー監督はリラックスしている状態ではなく、毎日、毎日、誰かを怒鳴りつけて怒っていた(笑)。楽をしているようにはとても思えなかったし、それだけ真剣に撮影に臨んだから、世界中で高い評価を得ていると思うよ。
―― 9か月間も拘束し、脚本も渡さない。ジョニー・トー監督らしい武勇伝が届いています。
トー監督とはあまり話をしないんだが、私たちが食事をしている場所から、外の様子が聞こえたんだ。だから、トー監督が何をやっているかがよく分かった。外がざわついてきら、そろそろ仕事だぞと(笑)。すると、監督が荒っぽい言葉で“いつまで待ってるつもりだ! さぁ、やるぞ!”と大声で怒鳴る。そんな感じだったよ。
――トー監督とは長年の旧知のような間柄だと思いますが、いかがでしょうか?
仕事を重ねていくうちに他の監督との場合は友人関係になっていく場合もあるが、トー監督とはなかなか友人関係にはなれない。自分がまだTV局の仕事で俳優をやっていた時代からトー監督は映画界で活躍していて、どうしても大先輩という位置づけで距離を置いてしまうね。それだけトー監督をリスペクトしているというわけさ!
トー監督が撮る映画だったら、出演する以外にない。やらざるを得ないだろう
――ジョニー・トー監督独特の演出によるリクエストには、どのように答えていったのですか?
脚本はおろか、ストーリーだってない。そのうえ、監督からは役の説明もない(笑)。高い砂丘を走り降りるシーンの撮影ではみんなが困ってしまったので、私がみんなに言ったのは、マルボロクラシックのCMのようにやればいいとか、グッチのモデルウォークのように歩けとか、聞かれる度に適当なことを指示していたよ(笑)。
――そもそも、今回の『エグザイル/絆』に出演しようと思われた最大の理由は何でしょうか?
今回の『エグザイル/絆』のキャンペーンで一緒に来日したフランシス・ンをはじめ、共演してみたかった俳優が多かったことかな。それが本当に第一の理由だが、そもそも、トー監督が撮る映画だったら、やる以外にないだろう。やらざるを得ないだろうね(笑)。私はトー監督が新作を撮るたびに出演したいと思っているんだ。
――トー監督の撮影は終始大変そうですが、実際の現場での共演者とのエピドードはありますか?
フランシスが車を岩にぶつけてしまって、ガソリンが漏れてしまい、みんなでエンジンをかけたまま逃げだしたことがあったな(笑)。もう1つは、真冬にビルの屋上の撮影で、寒さの中でフランシスが羊肉のしゃぶしゃぶや、腸詰めのご飯を作ってくれたこと。とても温かくて美味しかったから、みんな太ってしまったよ(笑)。
素が出てしまうのは嫌だが、特殊な撮影のせいで無理矢理そうなってしまった(笑)
――大変だったのはアンソニーさんだけでなく、共演者のみなさんも同じだったようですね。
ああ、ニック・チョンはとても頑張ったと思う。劇中、彼が死に布に包まれて火をつけられるシーンがあるが、本当に火をつけて、それがなかなか消せなくなってしまって、本当に危なかった。別のシーンでは、彼は高いところから投げ落とされたのだが、しかも下にはたくさんの植木鉢があって、彼は背中を痛めてしまったんだ。
――男気あふれるキャラクターでしたが、どのようなことに注意して演じていましたか?
内緒にしていた話をしよう。みんな男気がある映画だと言ってくれるけど、そのイメージを壊してしまうかもしれないが、じつは来日前にトー監督と会い、久しぶりにこの映画の話をしたんだよ。監督は4人の主人公を“主婦みたいだな”と言っていて、ラム・シューのことはフィリピンのメイドみたいだって言っていたよ(笑)!
―― 最後に、アンソニーさんから日本にいるファンの方々へ、本作をアピールしてください。
トー監督は撮影中にもかかわらず、僕らを何度も放置してプライベートの時間も観察して、その様子を映画に採り入れていた。本当にリアルな人間関係が出ていると思うよ。だいたいにおいて素の部分が多いような気もするが、自分としては素が出てしまうのは嫌かな。特殊な撮影のせいで無理矢理そうなってしまったがね(笑)。
アンソニー・ウォン(ブレイズ役)
1961年生。香港出身。『八仙飯店之人肉饅頭』(93)の大怪演で、香港アカデミー賞主演男優賞を受賞。『インファナル・アフェア』(02)でトニー・レオンの上司ウォン警視を好演、日本でもファンが増大した。そのほか『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』(05)など出演作は数100本にも及ぶベテラン俳優で、近年はジェイ・チョウが初監督した『言えない秘密』(07)、『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(08)など意欲的に出演を重ねている。
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