
人々の視力が失われるという地獄のような世界で、人間の醜い本性が剥き出しになっていくパニック・サスペンス『ブラインドネス』が評判だ。その本作で唯一、目が見える主人公を熱演したジュリアン・ムーアの初来日が実現。フェルナンド・メイレレス監督との仕事など女優として第一線でい続ける彼女にさまざまな話を聞いた。(取材・構成・撮影/床板京平)
人は分かっていて、でも何もしないで、最終的に痛手を負うということをずっと続けている――
――フェルナンド・メイレレス監督との仕事はいかがでしたか?
とても物静かな人よ。自分の欲しいものをしっかりと伝えてくるけれど、全然傲慢さがないの。驚いたのは、リハーサルや撮影の合間におしゃべりをしているときでもカメラが回っていたことよ!
彼はそれほどリアリティーを求めているのね。映画というものは、やはり多少は誇張されているもので、普通の生活というのは、そんなにドラマチックじゃない。でも彼は、たとえば、『シティ・オブ・ゴッド』の子どもたちから素晴らしく生き生きとした衝撃的な演技を引き出したように、人間的で現実的なやりとりをカメラに収めたいと思ってるのよ。
――唯一、目が見えるキャラクターを演じるうえで“見える者の責任感”を感じたそうですね。
あまり先を急がず、成長して変化していく彼女のリアクションに沿って演技をしていったわ。最初、彼女は自分と夫のことしか考えていなかったけれど、周りで人が死んでいくのを見て、“なぜ私は何もしなかったのか?”と思い、責任をとるための行動を始めるの。彼女は自分や仲間を守るために人を殺してしまい、それはある意味で英雄的な行動であると同時に、“戦争”を始めてしまったことでもあるのよ。彼女が何かをすることによって現実世界に変化が起きる。そうした行動を起こすことで、彼女は自らの責任を果たしていったのだと思うわ。
――“人は目は見えていても、真実は見えていない”というメタファーが強烈に伝わりますね。
私たちは、“自分では理解していたつもりが、じつはそうではなかった”ということが後で分かってショックを受けることが、しょっちゅうあるんじゃないかしら?
人というのは、“これで大丈夫なんだ”と分かっているふりをしたくなるものよ。けれども、そうして目を背けていると、いつか心配していたことが現実に起こってしまい、嫌でも気づかされる。人は分かっていて、でも何もしないで、最終的に痛手を負うということをずっと続けている。気づいているけれども、気づかないふりをしているということは、すごいたくさんあると思うわ。
私の仕事ほど融通が効く仕事もないって自分に言い聞かせているの(笑)――
――本作に限らず、強い女性を演じることが多いと思いますが、作品選びのポイントは?
脚本、それから監督も大切よね(笑)。私が今まで仕事をしてきたような監督たちと仕事ができて、とてもラッキーだったと思うわ。また、私は語られているストーリーの中に入りたい、作り上げられた世界の一部に入りたいとつねに思っていて、そのストーリーをしっかりと支える、強い視点をもった監督にとにかく惹かれるわ。
――ハリウッドでは年齢が上がるにつれて、女優の役が少なくなっていくと言われますね。
それは、私はラッキーだったということだと思うわ。女性はとくに役が少なく、おもしろい仕事、映画を探すこと自体が難しいの。たとえ若い女性であっても競争が激しく、才能のある女優はたくさんいるのに、役があまりない。女性の役自体がないの。そういう状況で映画に出てこられたことはすごいラッキーなことだと思うわ。
――また、仕事とプライベートとのバランスはどうですか?
大変だって思うこともあるけれど、私の仕事ほど融通が効く仕事もないって自分に言い聞かせているの(笑)。だから、仕事が続いていること自体がありがたいことだと思うし、仕事に融通性があることがバランスがとれている秘訣だとも思うの。私の仕事が特殊だからだと思うけれど、世の中のみんなが願っていることなのよね。
ジュリアン・ムーア(医者の妻役)
1960年生。アメリカ、ノースカロライナ州出身。『フロム・ザ・ダークサイド/3つの闇の物語』(90)で映画デビュー。1997年の『ブギーナイツ』でアカデミー助演女優賞、1999年の『ことの終わり』で同賞主演女優賞にノミネートされる。2002年度のアカデミー賞では『エデンより彼方に』(02)で同賞主演女優賞、『めぐりあう時間たち』(02)で同賞助演女優賞に同時にノミネートという快挙をなしとげ、実力派女優として不動の地位を築いた。
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