
『シティ・オブ・ゴッド』がアカデミー賞監督賞にノミネートされたブラジルの鬼才監督、フェルナンド・メイレレスの最新作『ブラインドネス』。ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説を映画化したパニック・サスペンスで、人間の本質が剥き出しになっていく衝撃のドラマも話題の的だ。来日した監督に話を聞いた。(取材・構成・撮影/床板京平)
“もし自分だったらどういう行動をとるだろう?”と考えながら観てほしい
――『ブラインドネス』で、もっとも伝えたかったことは?
ヒューマンドラマ、ラブストーリーと受け取ってもらっても構わない。人間が誰しも持っている本当の意味での“相手のことが見えていない”という事情が、苦しむことによって見えるようになる――そういう物語だと受け取ってもらっても構わない。いろんな観方が出来る作品だと思うので、その部分は観客に委ねたいと思う。
――同じように盲目になったら、どのキャラクターと近い行動を?
マーク・ラファロ演じる医者と同じような行動がとれればいいと思っているけど、実際は分からないよ(笑)。とてつもない危機的状況だし、プレッシャーもあるだろう。ただ、“もし自分だったらどういう行動をとるだろう?”と考えながら観てほしいんだ。そうすることで自分自身の本当の姿を知ることになると思うよ。
――そもそも、サラマーゴ氏の原作のどこに惹かれましたか?
劇中のような状況に置かれたら、自分もどうなるか分からないということに惹かれたよ。先のことは誰にも分からない。つまり、この状況では“見えない自分”というのが存在するわけで、もし、自分がそういう状況に置かれたら、そういうことがさらけ出されてしまう。そのアイデアがとてもおもしろいと思ったんだよ。
今回の『ブラインドネス』では、人間そのものの物語を扱ったんだ
――サラマーゴ氏は「映画は想像力を奪う」と言ったそうですね?
サラマーゴ氏にそのことを聞いたことがあったんだが、そんなことは言っていないそうだよ(笑)。ただ、正確にはポスト・プロダクション段階の「CG、SFXなどが想像力を破滅させるのだ」と言われたそうだ。つまり、すべてが視覚化されてしまうと、想像力の余地がなくなるということ。そのことへの批判だったんだね。
――そのサラマーゴ氏の意見に、ご自身は同意しますか?
ある部分ではね。多少は想像力を発揮する余地を残して、ひとつのアイデアや発想を完成させるべきだと思う。僕は本が大好きで、文学が素晴らしいと思うのは、すべてを自分で想像しないといけないところだ。一方で映画では、本では与えられないことが可能となる。文学と映画はアプローチの手法が違う存在だということだね。
――映画制作のうえで一貫しているテーマはありますか?
『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』と撮ったわけだけど、社会性が強かったよね。今回の『ブラインドネス』は、人間そのものの物語だ。人間の心理であったり、哲学的なテーマを扱った。自分がかつて関心があった社会問題から、人間について、人間を見つめることに関心が変わってきているのかなと思うよ。
自分自身の人生でも、痛みを伴う苦難を乗り越えて学んだ――
そうするのが良い方法だと思う
――ところで、続編の映画化についての意欲はありますか?
現段階では続編について考えていないし、他の監督に譲ってもいいと思っているよ。自分にとって大きな挑戦だったし、大変な作業だった。そもそも、今回の『ブラインドネス』が、ご存知のように何年もして自分のところに企画が舞い戻って来て、これはすごい偶然だと思ったのも、映画化したかった理由のひとつだったんだが。
――劇中のようなドラスティックな解決法で、社会は変わると思いますか?
僕には分からない。しかし、このようなカタストロフィーは人生における苦しい出来事を乗り越えることを学ぶためのものであり、どれくらいの苦難を乗り越えれば“人は見えるようになるのか?”ということを描いた旅でもある。自分自身の人生でも、痛みを伴う苦難を乗り越えて学んだので、それが良い方法だと思うよ。
――本当の意味で“見える”ようになると、変化は起こるでしょうか?
そうだね。“見える”ようになった人には世界はいい場所になっていくと思われるけど、仮に一度見えなくなって、また見えるようになったときに、以前のように愚かな盲目の状態に戻ってしまうのか? それともよりよい社会の構築を目指していけるのか? これは非常に興味深いことだと思う。ぜひ考えてみてほしいね。
フェルナンド・メイレレス(監督)
1955年11月9日生。ブラジル、サンパウロ出身。2002年、リオ・デ・ジャネイロのギャングの抗争を描いた『シティ・オブ・ゴッド』を監督。数々の賞に輝いた。続く長編監督作品は、サスペンス小説の巨匠、ジョン・ル・カレの原作を映画化した『ナイロビの蜂』で、主人公の妻を演じたレイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。現在、多くの俳優たちに、その作品への出演を熱望されている、人気映画監督のひとりである。
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