児童文学作家・木暮正夫の原作をベースにした『河童のクゥと夏休み』が大好評発売中だ。劇場公開時に大変な反響を呼び、一般のユーザーが決めるYahoo!映画の「勝手に日本映画賞」のアニメ部門でも第1位に輝いた感動のアニメーション巨編。そんな河童と少年のひと夏の交流をまとめ上げた原恵一監督にさまざまな話を聞いた。(取材・構成・撮影/床板京平)

地味な題材ですが、観てもらえる映画になると信じていました

――劇場公開時にはそうとうな話題になりましたね。あの狂騒をご自身なりに分析されましたか?

もともと分析する人間でもなくて(笑)、たとえば、下心を外して作品を作ったほうが人の心には響くはずだと信じているので、そういうことだったのかなと思います。地味な題材ですが、観てもらえる映画になると信じていました。それで、この『河童のクゥと夏休み』の映画化を長い間あきらめきれなかったんです。

――原作に出会われたのは、20数年前だそうですね。その期間、ずっと?

そうですね。アニメーション化したい順位が常に1位の作品でした。児童文学で活字の原作だったので、コミックが原作の場合と違って、僕らが自由に入り込める余地がありますよね。人気のあるコミックをアニメーション化する場合、変えられないですからね。仕事としてそういうことをすることにも寂しい気がしたんです。

――その後、諸条件が整い、精神的にも撮ろうと思う段階に入ったのでしょうか?

自分の技量もなかったので、実現は不確かだったんです。個人的な企画としてゆっくり育てようと。だから、いつも心にあったので、忘れることはなかったんです。チャンスが来れば、やろうと(笑)。ただ、案の定、企画に魅力を感じてくれる人が現われず、想いも半端じゃなかったので、映画化になっても心境は複雑でしたね。

何気ない日常に奇跡が起こる、そういうことで映画が豊かになる

――しかし、フタを空けてみれば、絶賛の嵐。感無量だったのではないでしょうか?

ありがたいことですが、本来は2時間30分ぐらいあれば、個人的にはスッキリしたと思うのですが(笑)。あと、最初からファンタジーを作ろうとも思ってなくて、そもそもファンタジーって言葉が好きじゃないんです(笑)。ただ、何気ない日常に奇跡が起こる、そういうのは好きで、映画が豊かになるのは確かですね。

――日常の風景の延長で劇中には沖縄のシーンが出てきますが、不安材料だったとか?

ええ。ここ何年か沖縄ブームが続いていますよね。まさに僕がヒヤヒヤしていたことで、クゥの着地点を沖縄にするアイデアはずいぶん前に思いついたことですが、年月が経つごとに沖縄という場所が内地の人間にとって特別な場所になってしまった。正直、悩みましたが、沖縄以外に適当な場所もなかったんですね。

――劇場公開時には“環境問題に一石を投じる”と言われもしましたけど、そういうことじゃないと(笑)。

そうですね(笑)。僕はいろんなことを描きたいわりに、はっきり答えを出すような映画にはしたくないんです。確かに何の結論も出していないような映画だという批判もありましたが、病に冒されているなと思いましたけどね。今はそういう映画しかダメなんだと。未解答の映画を持ち帰る、こういう楽しみ方を知らないんですね。

観てすぐ消費されて終わり、『河童のクゥと夏休み』をそんな作品にしたくはなかった

――それこそ、昔の日本映画には余白と言いますか、観客に投げっ放しの映画がありましたね。

ええ。たかだか2時間ぐらいの上映時間で、投げかけたテーマに白黒つけるほうが乱暴で、説得力がないと僕は思うんですよね(笑)。映画の続きを持ち帰って自分で考える、そういう映画に僕はしたかった。だから、何が良くて何がダメかっていうのは、『河童のクゥと夏休み』では、あえて決めないようにしたんです。

――今の映画は答えを出して決めてくれるようなタイプがウケますからね。

僕自身、『河童のクゥと夏休み』の中で全部答えを出さなかったのは、人って昔観たときと現在に観たときで違うことを考えたりするものなんですよね。そういう観方をしていただきたいし、『河童のクゥと夏休み』はそういう映画にしたつもりです。観てすぐ消費されて終わり、のような作品にしたくはなかったんですね。

――ただ、そこを踏まえつつ、『河童のクゥと夏休み』であえて感じ取ってもらいたいことは?

(笑)。DVDなので、飛ばして観たりすると思うんですけど(笑)、それでも時々引っ張り出して観てもらえるようなDVDになってくれたらいいなと思いますね。時々むしょうに観たいシーンがあって、DVDを引っ張り出すことってあると思うんです。『河童のクゥと夏休み』は、そういう存在であってほしいと思います。

プロフィール

原恵一 はらけいいち

1959年生。群馬県出身。88年、『エスパー魔美 星空のダンシングドール』で劇場映画監督デビュー。その後、『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(97)から『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)まで6作の脚本と監督を手がけ、「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」は、第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞のほか、数々の映画賞に。最新作『河童のクゥと夏休み』も大きな注目を浴び、賞賛された。

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